[Review]: 宮崎勤事件―塗り潰されたシナリオ

宮崎勤事件―塗り潰されたシナリオ (新潮文庫)

『宮崎勤事件―塗り潰されたシナリオ (新潮文庫)』 一橋 文哉

1988〜89年にかけて四人の幼女が誘拐、殺害された警察庁広域重要指定117号「連続幼女誘拐殺人事件」。日本を震撼させた犯人宮崎勤。彼がいかに用意周到に犯罪を計画し、ある種の完全犯罪を目論んでいたかに驚愕した。

「宮崎は完全犯罪を狙い、自ら書いたシナリオに沿って事件を起こした。彼の不可解な言動はすべて演技だった」(同書p.60)という警察幹部出身者の衝撃の告白から物語がはじまる。

綿密な取材と膨大な公判資料の再検証をもとに構成。著書を信頼するならば、宮崎勤に精神鑑定は不要、最高裁は上告を棄却して死刑を確定させたらってツッコんでしまった(今はちょっと違う)。

ただし、この本の目的、「犯行の真の動機は何か?」を完全に解明できたかどうかは疑問。それを差し引いても一読に値する作品であることにかわりはない。

特に「悪魔のアナグラム」は読んでいて背筋が凍り付いた。事件全体の計画性は用意周到さと乱暴さが両極端で稚拙、なのにこのアナグラムだけは知能犯を超えた不気味さを感じた。

もうひとつ。「幼少期の家庭環境や親子関係が人格形成に影響を与えるか」という点。レアケースかもしれない。本人以外の要素にもかなり問題(育児、躾、夫婦関係、家柄など)があるのでは。

最後に著者の一橋文哉。謎の人物らしい。主に「新潮45」で執筆しているとのころ。一説によると、毎日新聞社の記者グループ(複数人説)って話も。著書以外に「三億円事件」(2000年12月テレビ放映:主演ビートたけし)や「グリコ森永事件」といった劇場型犯罪をテーマにした作品などがある。

昨年、一昨年に「世田谷一家殺人事件」をテーマに「新潮45」で掲載しているはず。この掲載には、軍隊で使用するブーツや特殊な止血帯というキーワードが登場していて、今までと全く違った犯人像が浮かび上がってる。少しでも犯人逮捕につながるような取材レポートになってほしいと、個人的には期待している。ホント警察の方々にはがんばってほしいし、何もできないけど応援してます。