簡単な日本語、難しい敬語

近所の本屋で気づいたら手にとっていた本。結果、とても勉強になった。枕元におくと睡眠薬がわりになる「章」もあったので、さらに感謝。

『ホンモノの敬語 (角川oneテーマ21)』 柴田 武

『その日本語、通じていますか? (角川oneテーマ21)』 柴田 武

著者の柴田武先生は日本語学者、専門は「方言」。なので、1,2ともに共通したココロニクイところは、「現在の日本語をかんたんに批判」したりしないし、「説教ぶらない」。そのあたりが社会学者の「日本語の乱れが非行につながる」なんて、ナンの論理的思考もない主観のみの主張と違うあたりが痛快。

1によると、敬語の伝統的な分類は、3種類ある。すなわち

  • 一 尊敬語
  • 二 謙譲語
  • 三 丁寧語

になる。しかしこれは間違いだという。正確にいえば、

  • 一の1 尊敬語
  • 一の2 謙譲語
  • 二 丁寧語

になる。つまり、「尊敬語・謙譲語」のグループと「丁寧語」のグループにわかれる。なぜか?

「尊敬語」は、相手を自分から離す(人をいちだんと高める)手段。「謙譲語」は、自分が相手から離れる(自分をいちだんと下げる)手段。だから両者は縦の関係にある、一線上の二つの方法と分類。それに「尊敬語」は、二人称である相手の行動に対して言い、「謙譲語」は、一人称である自分の行動に対して言う。この点でも対極にある関係で一グループ。

対して、「丁寧語」は”ことば自身”を丁寧にするし、同時に自分のためでも相手のためでもある。

結論として「尊敬語・謙譲語」は、言語行為をする人自身が対象になる。「丁寧語」はことば自身が対象になり、”加工”するだけ。

さらに敬語には、プラスの敬語とマイナスの敬語がある。「尊敬語(+)」は「卑罵語(-)」。「謙譲語(+)」は「尊大語(-)」。例えば、「食べている」という食べる行為。

尊敬語 「めしあがっていらっしゃる」-相手の食事の行為をいう
中立 「食べている」
卑罵語 「食ってやがる」 -ふつう敬語とは言わないが

例の卑罵語は、ふつう敬語とは言わないが、「食ってやがる」的言い回しがあるからこそ、「めしあがっていらっしゃる」ということばが対照的に生きてきて、効果を発揮するとのこと。

なんか目からウロコ。卑罵語なんてこの年になって初めて聞いた。これ、1章で説明してあるんだけど、ここだけでグイグイ引き寄せられて、ドンドン読み進めるハメに。

また敬語には、「親しき人」に使う「内」なる敬語と、「距離をおく人」に使う「外」の敬語がある。「外」のシーンによって、敬語を使い分けないといけないから難しくなる。心当たりアルアル。ちなみに、私は敬語下手なんで、赤面しながら読破。

2章以降は、敬語をテーマにしながらフォーカスを「日本語」にうつす。「ヘェ〜」的解説が怒濤のごとくつづく。なかでも日本語はぜんぜん難しい言語でなく、SOVの言語構造も世界的に見て多数派である、なんて読むとわかる。ナニがわかるか?

「なんで外国人って、結構簡単そうに日本語を話すのか?」

以前から思っていたこの疑問に快刀乱麻のごとく答えてくれる。ウハウハです。それでも、じゃぁなぜ日本語は難しいといわれるのかがミソ。ここにA-Zだけで組み合わせて使う言語との違いがあるみたい。まぁ「話しことば」と「書きことば」といえばピンとこられるかたもいらっしゃるかと。

コレ読んで、自分が「世界でも珍しい単一言語社会」であり「公用語の規定がない社会」に属していることを痛感。その社会に「甘え」ていることも納得。

2の「その日本語、通じていますか?」は、1に感動したので続いて読んだ本。「方言」をテーマに、「方言を恥じずに伝える日本語」を解説。しかも言語学者らしく、日本語を構造化している。特に1章と2章の「伝えるためのコツ」はわかりやすい。サイトの文章を書いたり、見直したい方にはオススメ。

反面、3章以降の「日本語の方言の構造化」は、専門的記述も散見し、興味がないと難しいかも。私には睡眠薬代わりに(笑)

両方を読んで「正しい敬語をもっと身につけないと恥ずかしい」と赤面し、「キタナイ河内弁も恥じずに使っててもエエのかと」とちょっぴり安心した複雑な気分。


Comments

“簡単な日本語、難しい敬語” への2件のフィードバック

  1. ガリベンのアバター
    ガリベン

    「○○です。」
    とかてってよく言いますよね。
    その『です』の語源を教えてください。

  2. ガリベンさんコメントありがとうございます。申し訳ないのですが、無学のため「です」の語源を知りません。ガリベンさんのほうで何かご存じでしたら、またコメントいただければうれしいです。