幻惑させる「顧客中心主義」

「顧客志向主義」「顧客第一主義」「顧客中心主義」という言葉は、今やマーケティング本を読むと当然のように用いられるようになりました。しかし、それらの言葉をどれだけ「実践」できているのか、疑問に思う時があります。

「真の顧客中心主義」についてとりあげたbeBitのコラムです。コラムのなかでテーマとは別に、さりげなく自社の「強み」を紹介しています。ウェブサイトのライティングという点でも参考になります。

市場が成熟し、顧客ニーズが多様化していく中で、 「顧客の意見が重要である」ことは当然視されています。 実際にアンケートやインタビューによって顧客に意見を求め、 事業戦略の策定や製品開発を行う事例も少なくありません。

しかし、顧客の意見を基に事業を推進したからといって、 必ず成功するわけではありません。

via: 顧客を正しく理解する – japan.internet.com Webビジネス

興味深かったのは、

日々の経験から顧客が何に関心を持っているのか仮説を立て、 実際の行動に基づくデータによって検証するといった繰り返しの作業が基本となります。 その積み上げ作業に手間を惜しまないことが、 商品やサービスの品質を高める近道となり、 その結果としてお客様の満足が得られるのです。

via: 顧客を正しく理解する – japan.internet.com Webビジネス

の箇所です。私が上記の言葉をお借りするならば、「あなたが一番販売したい顧客は誰ですか?」とお聞きします。ウェブサイトの制作会議で、具体的な人物像を一人挙げていただきます。ただ大抵の場合、この質問をしますとビタっと周囲の空気が止まるか怒られます(笑)。

仮に答えが”女性”なら、さらに「どのような女性?年齢は?収入は?容姿は?独身?」など矢継ぎ早に問いかけていきます。そのやりとりでアウトプットされた顧客の像(=一人の顧客)をまとめます。

そして、「一人の顧客」のライフスタイルがどのようなものかをトコトン探っていきます。もし、周囲に「一人の顧客」に近い人がいれば、実際に聞いてもいいと思います。

この作業をおこなう目的は、「仮説」をたてるためです。「仮説」の内容は、多岐にわたります。例えば、検索キーワードもそのひとつです。「こういうキーワードで検索してくるのではないか?」というような仮説をたててサイトを制作していきます。

その後、アクセスログや来店時の会話のキーワード・行動などから情報収集しながら「検証」していきます。

もうおわかりですね。ウェブサイトは、この「仮説・検証」が容易なうえ、ページの「修正・追加」がすぐにできます。

ただし重要なことは、先の引用に述べられているように、「実際の行動データに基づく」ことです。裏を返せば、「客観的データ」を収集しなければ、ウェブサイトを育てていくことは困難になります。

近年、セオドア・レビット教授やフィリップ・コトラー教授らが「マーケティングを科学」したおかげで、日本語訳が難しい「マーケティング」をそのまま「マーケティング」として使用できます。その結果、「マーケティング」が身近に感じられるようになりました。

例えば、”4P”や”CRM”といった用語は、コンサルタント業界だけでなく各業界で用いられています。またコトラー教授の理論を日常の販売現場や企業行動を例示して解説した書籍も巷にあふれています。

一方、アメリカの不景気の時を合わせるかのように、レビット教授やコトラー教授らの現代マーケティング主流派に対抗する流派が、80〜90年代にかけて登場しました。心理学や感情をベースにしたり、他の学問をミックスさせたマーケティング理論です。

それらは、「ポストモダンマーケティング」と呼ばれ、日本では神田昌典氏や小阪裕司氏らの実践マーケティングが有名です。

現代マーケティング主流派は、「顧客中心主義」の重要性を唱えます。一方、ポストモダンマーケティングのなかには、従来の「顧客中心主義」を批判する人もいます。どちらの陣営の主張も一読に値しますし、非常に参考になります。

ただ、「マーケティングを科学する」教授や批判する教授とちがい、経営者はどちらかの陣営に属する必要もなく、識者の知識を咀嚼した「オレ流顧客中心主義」を絞り出せればいいと、私は思います。

顧客の志向が多様化している現在、顧客はつねに自分より経験や知識の豊富な人の意見を信頼する傾向があります。この傾向に対して中小零細企業は、専門特化した商品を販売している分、活用できる要素を持っているはずです。

『時には、客観的データを収集した「真の顧客中心主義」に徹する。時には、「顧客が求める商品のプロ」であるという、「師匠的ふるまい」もする。』

自分で書きながら「無茶苦茶だな〜」と思いつつも、「顧客中心主義」という言葉に惑わされずに柔軟に考えていくことができればと、自戒しています。