[Review]: スロー・ビジネス宣言

『スロー・ビジネス宣言! (日経ビジネス人文庫)』 阪本 啓一

マーケティング戦略で敏腕経営コンサルタントとして著名な阪本啓一氏。スピード経営が何かと叫ばれる現代ビジネス、それをあえて「スロー・ビジネス」でいこうよ宣言。ただし、この著書で使うスローは、”速度の遅い”ではなく、スローフードやスローライフと同じ意味。一時的なヒットでもてはやされたあと、露のごとく消えてしまっては悲しい限り。末永く続けてこそビジネスじゃないかと。

序章で米国と日本のトホホな事例を列挙(短文だけどたくさん)。なぜそんなことになってしまったのかを説明して、第1章以降に処方箋を示す。

  • 文庫版のまえがき
  • 序章
  • 第1章処方箋1 中華思想で考えよう
  • 第2章処方箋2 ロングセラーに学ぼう
  • 第3章処方箋3 匠の知恵に学ぼう
  • 第4章処方箋4 二眼レフで考えよう
  • 第5章処方箋5 ブランドを行動しよう
  • 第6章処方箋6 想像力に翼を
  • 第7章処方箋7 笑顔で経営しよう
  • 第8章処方箋8 統合しよう
  • 終章処方箋のための処方箋 志を持とう

トホホな事例がオモシロイ。激しい轟音をたてる吸引力のない掃除機。工事現場の粗雑さ。オンラインサイトから届いた空箱の商品。ドアをつけ忘れたクローゼット、などなど。ポンポン小気味よく飛び出してくる。

なぜそうなったかのか?

ビジネスで重要なことは、ハンズ・オン、すなわち、現場の知恵と、セオリー、経営理論とがバランスしていることである。ところが、米国では、あきれるほどHANDS-ON(現場の知恵)が薄まっている。(同著P.34)

日本でも同様のことが起きているといい、「人間をコストとしてしか見ない世界観」が一因だと断じている。

じゃ、どうすればいいのかのか?だされた処方箋にウンウンと相槌をうってしまいたくなる。

  • 【中華思想で考えよう】: お墨付き症候群から脱却する。答えはどこにもない。なければ自分で考える。
  • 【ロングセラーに学ぼう】:生活者・顧客の質(=QOL)を上げることにビジネスを価値をおくべきではないか。
  • 【匠の知恵に学ぼう】:デジタルな世の中だからこそ、アナログを大事にする。
  • 【想像力に翼を】:将棋盤全体を見渡せる視座をもつこと。フローとストック、両方の知を働かせること。
  • 【統合しよう】:顧客に提供できる価値を細分化するのではなく、顧客(生活者)を全体でとらえて情熱を傾ける。

各章の処方箋にも興味深い話が、引き合いに出されている。理論に裏打ちされたマーケティングやブランドのエッセンスがギュッとつまっている感じ。でも小難しい理論をお披露目することなく、わかりやすく説明している。

個人的には、9割がた賛同できる。ただ、少し首をかしげたのは、「流行を追わず商品をじっくり育てよう」という点。確かに、大企業のように年間に大量の商品を開発して市場に投入しているなら、この指摘は理解できる。体力的にも納得。

でも、創業間もない企業やベンチャー企業には、はたして筆者の言うスロー・ビジネス的余裕で構えられるかな。やっぱり、目先の売上・利益確保に奔走し、いちはやく安定軌道に乗せたいという焦りもあるんじゃないかと思う。

最後に、個人的に印象に残った箇所を紹介。

ご贔屓という言葉に該当する英語に「patronize」(パトロンの語源)があるように、この「本来の姿」に、洋の東西はありません。 商売は、「商は笑なり」という昔の言葉のごとく、一つの商品を前にして、商人と顧客の二つの笑いがあることが理想なのです。

自分も商品を前に、顧客と笑いながら末永くシンクセルを”patronize”してもらえるように邁進しないとイカンと肝に銘じた。