[Review]: 理解する技術

理解する技術 情報の本質が分かる (PHP新書)

『理解する技術 情報の本質が分かる (PHP新書)』 藤沢 晃治

藤沢晃治氏の最新作。「”情報”をわかりやすく伝える」ジャンルの解説では、いちばんわかりやすいと個人的には思っている。

  1. 『「分かりやすい説明」の技術 最強のプレゼンテーション15のルール (ブルーバックス)』 藤沢 晃治
  2. 『「分かりやすい表現」の技術 (ブルーバックス)』 藤沢 晃治
  3. 『「分かりやすい文章」の技術 (ブルーバックス)』 藤沢 晃治

プレゼンで悩んでいる方へオススメ。重複箇所があるので基本を体系的に記憶するのにうってつけ。

今回のテーマは、「分かりやすく理解するための情報受信術」。過去3冊は、「いかにわかりやすく情報発信するか」という発信者サイドの解説だったのに対して、本書は、受信者サイドの解説。目的は、あいかわらず分かりにくい情報発信に対して、いかに効率よく吸収するか。また騙されないように本質をとらえること。

  • プロローグ こんな経験はありませんか?
  • 第1章 アウトプットしながら情報収集する
  • 第2章 分かりにくい文章から意味を読み取るには
  • 第3章 文章から情報を読み取る基本テクニック
  • 第4章 情報を手っ取り早くつかむテクニック
  • 第5章 図表をつくりながら読むテクニック
  • 第6章 記憶力を高めるテクニック
  • 第7章 情報にだまされないテクニック
  • 第8章 一夜漬けで乗り切る勉強テクニック
  • 第9章 職場の情報収集テクニック
  • 第10章 人から情報を得るテクニック
  • 効率的な情報受信のポイント

情報収集の前提は、アウトプットを心がけなければならない。情報受信の大前提。インプットのみになると、ボーっと聞き流したり、読み流しがち。でも、「仕事で使う」「試験にでる」「他人に教えないといけない」となると、理解と記憶が進む。また、アウトプットすると”理解していない点”がハッキリする。

さらに、脳の仕組みをあらかじめ知っていると、脳に負担をかけずに効率的に収集できる。認知心理学の分野では、記憶とは「短期記憶(筆者は「脳内関所」と呼称)」と「長期記憶」の二つにわけて考える。「脳内関所」は解釈するための一時的な作業場。「長期記憶」は、作業場で処理した情報を長期的に格納する場所(筆者は「脳内辞書の棚」と呼称)。ただし、全部の情報が脳内関所を通過できるわけじゃない。脳内関所の役割は5つ

  1. 情報の大きさをチェックする
  2. 脳内辞書の棚から必要な辞書を選ぶ
  3. 情報構造を分析する
  4. 論理性をチェックする
  5. 脳内辞書に格納して意味を確定する

脳内関所は、サイズの大きな情報の取り扱いは苦手。例えば、電話番号以上の桁数を覚える行為。次に、脳内関所をクリアした情報と、脳内辞書の棚にある情報とに関連性がないか検索。「新車情報」という情報が入ってきたら、「車の運転の仕方」の棚を検索。

そして、入ってきた情報の構造を分析。因果関係、主従関係。また他の脳内辞書の棚との構造的関係をチェック。ただし、腑に落ちない情報は格納されない。「何故」と「根拠」がセットになると格納されやすくなる。

最後に、4までの工程をへて保存された情報は、脳内辞書の棚にそれぞれ格納される。これが、「わかった」「理解できた」ということ。(本書は、1-5をごく簡単に説明している。「認知」の解説は、他に 『「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学 (ちくま新書)』 山鳥 重 もある。

この第2章までが、「理解する技術」の仕組み。仕組みがわかれば、実践しましょうよということで、以下3~10章まで”テクニック”を説明。読書方法の一部をピックアップすると、

  • 最初に、文章全体をザッと見渡して、全体の構造を理解する
  • メインの項目を把握する
  • 5W1Hを問いかけながら読む
  • 仮説を立てて読む
  • 図表に変換して読む

最後の「効率的な情報受信のポイント」には、1-10章までのエッセンスを箇条書きにしてまとめ。

とまぁ、相変わらず切れ味するどい秀逸な解説書とぐうの音。過去3冊同様、理解する技術に必要な基本的要素が中心だけど、やっぱり「わかりやすい」。この方は、慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業後、大手メーカーにソフトウェア・エンジニアとして22年間勤務。今年3月に退職という経歴の持ち主。

経歴に合点がいき、感じたことが2点。1つは本書全体が「理解」という名前のソフトウェアをプログラムしているような。僕自身はプログラミングできないけど(泣。

イメージだけで書くと、ソフトウェアをプログラムするとき、まず要件定義をする、はず?要件定義は、アウトプットに必要な全体構造の策定。その時、制作の目的(発注者の意図、使用者の利便性など)を理解する能力が、求められるかと。同時に、コミュニケーション能力も鍛えられる。

そして、全体構造が決まれば仕様書へ、かな?構成要素と技術。買い物システムで例えるなら、ユーザーが商品をカートに入れてから、注文完了するまでのフローについて、YesとNoの場合の動作をチャートにしていく。

本書は、エンジニアのキャリアで培ったスキルがてんこ盛りって感じ。「理解する技術」の要件を定義して、必要な要素と技術のフローチャートをおこし、わかりやすい言語を使ってプログラムしたアウトプットのような。

2つめは、マトリックスや図表への変換技術。前述の3冊でもたびたび登場するけど、文脈を図に変換するテクニックが、「認知」に絶大な効果があると得心。僕も体感してるんだけど、コンサルタントに必要な能力って、まさにコレだと思う。

経営者の悩みや課題を理解するとき(情報受信者)、提案するとき(情報発信者)のときの両方のシーンで、マトリックスにするスキルが必要なんじゃないかな。

結局、経営者の思考をいかにマトリックスにして提示できるか。コンサルタントの力量は、「縦軸」と「横軸」の選定に問われる。

ということで、情報収集から理解までの工程の基本的体系を知りたい方には、一読もありということで 🙂