シャレにならんで

1988か89年の師走。場所は行きつけのサテン2Fの奥の席(指定席)。短ランにボンタンの高校生が4人。コーヒーを飲みながらダベっていた。

「まさあき、Aちゃんとの例の話、こいつらにも聞かせたれや」と、Tが、他のダチYとKのほうを見ながらオレに声をかけた。すると、Yが、

「ひょっとしたら、あのウワサの話か。マジで聞かせてや。Aちゃんとの三部作やろ。めさくさコワイらしいやんけ。」

「ほんな話、聞きたいか。当のオレは体験したけど信じてへんでぇ。それでもエエねやったらな」と、オレ。

「ホラ、Aは門限20:00やんか。部活の時は一緒に帰って、家まで送ったらそれでオシマイやねんやわ。せやから、オレらテスト前は、ちょっと寄り道デートしてるんや。それでな、この間の中間のときや、Aと帰りしな枚岡神社の梅林行ったやんけ。」

「おお、それで。何かしようと思ったんやろ?」

「アホか!それでな、梅林の端のほうのある場所にな、ちょっとした小川が流れて、座れるとろこがあるんや。その目の前が崖というか斜面になっててな。登ってあそべるや。それをずっと登っていくと、古墳群抜けて、府民の森へ通じる道やねんけどな。」

「夕方、そこで色々しゃべってたんや。そしたらな、姉弟が崖で上り下りして遊びよってな。オレら笑いながら見てたら、弟が3メートルほど上から崖を滑って落ちてきよったんや。なんか、登っている最中にひっぱられるように体制崩しよってな。」

「ほんで、オレ、とっさに崖の下に駆け寄って、その子を受けとめてな。まぁ、スリ傷ですんだんやけど、泣きまくるしな。姉ちゃんに家へ連れて帰りって言うて。」

「オオ、それで、それで」

「それから、また二人でしばらくその姉弟のこと心配してしゃべってたら、19:00前ぐらいかの。もう暗なってそろそろ帰ろうかって言うてたときや。」

「実はな、その30分ほど前から、二人しかいてないのに、その場所でな、ザワザワした音が聞こえたんや。で、オレ、風で木とかが揺れてるんかなぁって思ってたんやけど。どうもしっくりこんでな。」

「で、そろそろやなぁって思ってたら、だんだん、何とも言えんヤバイ感じがしたんや。音も近くなるような気がしたし、空気がゆがんでるっていうんかの。」

ちょっと、顔が半分ひきつってきたYとKが、「マジか!?」

「オオ。でな、こらアカンと思って、『A、いのか』って言うて、Aの手をひっぱって崖を背にしながら帰ろうとしたんや。」

「そしたらな、もうヤバイと何やワカランけど感じたから、崖のほうを振り向いたんや。そしたら、やっぱりや。」

「ナニが、やっぱりやねん?」と、顔が完全にひきつったYとK。

「崖の上のほうの窪みにな、白い大小の影が二つ、コッチをみてるように座っとんねん。もうな、思わず、『A、チョット待て、またや』って言うたがな」

「またって!?マジか。」

「おお、Aは、その途端泣きよったけどな。ちゅうのも、オレ、今年の1月にも、Aと石切霊園で夜景観てたら、同じ影をみたんや。だから、Aは知っとったから、余計や。」

「うわ〜、マジか。」

「Aは、手をつないでダッシュで逃げようとするんやけど、オレは、信じてへんから、何かつきとめたくてな。『コラ、ナニみとんねん』とか『なんか、用か』とか、声かけてジッと見るんやけど、反応なしや。」

顔が完全に崩壊したYとKが、「シャレにならんなぁ。でも、それってあの修学旅行の時のAちゃんの話よりマシやねやろ?」

「当たり前やがな、アレは、ホンマにビビッたぞ。マジで。まぁ、この話よりも、Kの高校の駐輪場の話とSの離脱の話の方が、もっとシャレにならんで。続きは、また、聞きたかったら、またしたるわ。」

なんでかわからないが、何度も聞いているTが、顔がピクついていた。初めて聞いたダチYとKは、鳥肌がたったと騒いでいた。

「ほな、いのか。もう遅いしな。また、明日」

と、ダチと別れてオレは店をでた。翌朝、昨晩と同じ席でモーニングをたべながら、Tに、聞いた。

「オイ、Yは?寝坊か?」

すると、Tが「朝、TELあってな、昨日家に帰ってから、39度近い熱がでたんやって。で、今日は休み。まさあき、やるなぁ。」

「アホ言うな、オレのせいやないやろ。」と、言いながら、オレは、フト気になったことがあった。

「それそうと、Tよ。この窓って開いてたことないよな?」

「ナイな。なんやろう?」と、Tは首をかしげながら、窓に手をやって開けてみた。

「うわ、マジか。まさあき、見てみ。オレ知らんかったわ。」

オレは、Tに言われるまま、窓から外を覗くと血の気がひいた。

「1年半ぐらいこの店かよてるけど、知らんかったわ。裏が墓地やったなんて。」

「しゃれにならんな」

「シャレにならんな」

オレとTは、食べかけのトーストとコーヒーを初めて残して、店を出て学校へ向かった。