[Review]: ロマンス小説の七日間

ロマンス小説の七日間 (角川文庫)

ここ1,2ヶ月、”フツウ”に読む小説から距離を置いていたなと気づき、縮めようと近くの本屋でゲット。年初にハマッタ三浦しをんさん。今度は、恋愛小説にチャレンジ。いやぁ、また腹筋がロッキー3になった。さらに、ドキッとするフレーズに出会ったおまけつき(笑)

あかりは海外ロマンス小説の翻訳を生業とする、二十八歳の独身女性。ボーイフレンドの神名(かんな)と半同棲中だ。中世騎士と女領主の恋物語を依頼され、歯も浮きまくる翻訳に奮闘しているところへ、会社を突然辞めた神名が帰宅する。不可解な彼の言動に困惑するあかりは、思わず自分のささくれ立つ気持ちを小説の主人公たちにぶつけてしまう。

原作を離れ、どんどん創作されるストーリー。現実は小説に、小説は現実に、二つの物語は互いに影響を及ぼし、やがてとんでもない展開に!注目の作家、三浦しをんが書き下ろす新感覚恋愛小説。

詳細に内容をレビューしてしまうと、面白みが半減しない(ォ。僕ごときのレビューではピクリともしないエキセントリックな小説。

全体の構造は、翻訳小説部分が7章、あかりがその翻訳に要する日数が7日間というお膳立て。本来なら原作に産毛のはえたぐらいの意訳になるはずの中世ロマンス小説が、現実のボーイフレンドの奇行に戸惑ったあかりの手によって、全く別のストーリーに超訳されていくところが抱腹絶倒。

でも、現実の二人はホント、フツーの男女。だから、恋愛小説として読むと、内容に目新しい展開はナイ。斬新なのは、構成にありかな。

なのに、ナゼこんなにもワクワクしながら読めるの?

やっぱり、しをんさんのコケティッシュな表現とそれを支えるボキャブラリにつきるかと。スピード感があって、登場人物の心中描写が絶妙。読みながら頭の中でシーンをリプレイできるぐらい臨場感があるテキスト。

ストーリーの”面白さ”よりも、表現の”笑い”で心が豊かになるって感じ。

でも、笑いばかりじゃないんだな。今回でいえば、「恋」や「愛」、「セックス」についてのしをんさんの思考だろうか、すごく心に残るフレーズが随所に登場する。

共に過ごした時間の長さと、互いへの理解の深まりとが、必ずしも比例しないのはなぜだろう。(P.165)

愛の言葉は万能の呪文にはならない。たとえ、愛を実感できる出来事と言葉があったとしても、そんなのは瞬間の高揚をもたらすだけだ。そこから気持ちを持続させていくのがどんなに大変かわかっているから、ときに言葉はなおざりにされる。(P.191)

なまじお互いにお互いの体に慣れつくしているものだから、その気になると段取りは早く進むし、心地よさを引きのばしたり焦らしたり、思いのままに楽しめるのがいけない。(P.123)

とかね。ずっとずっと吹き出して、ときには大口あけて油断していると、こんなフレーズが、目に飛び込んでくる。頭の中で少し立ち止まる。気持ちは、前へ行きたがるんだけど。「もったいないじゃないか、こんなステキなコトバに出会ったんだから過去・現在・未来を妄想しようよぉ」って声が聞こえてきて、余韻にひたってしまうな。

にしても今回は、やっちまった。宝塚行阪急電車がすいていたもんだから、ついつい読んでしまったのが間違いのもと。クックックッとしたあと、シマッたと顔をあげると、前の女子高生3人に、キモオタあつかいされてしまった…..orz

いやぁ、ヤッパリ、しをんさんの小説は電車で読んじゃぁイカンですな。にしても、僕は、女性の作家をあまり知らないんだけど、しをんさんって、新井素子さんとオーバーラップしてしまう。なんか、似てるというか、同じような手ざわり感がする。ちなみに、新井素子さんはSFが本流だけど、「結婚物語」「新婚物語」「ひとめあなたに」「ひでおと素子の愛の交換日記シリーズ」もオススメ。

って、ラストはあいかわらず支離滅裂な尻切れトンボでオシマイ。