[Review]: コーチングの技術

『コーチングの技術 (講談社現代新書)』 菅原 裕子

近くの旭屋書店で、背表紙だけみてゲットした本。セルフコーチングのハウツーが自分の頭にのしかかって、悩んでいたから琴線に触れたのではないかと自己分析。コーチング関係の書籍は、実践的内容が多いなか、タームをおりまぜた理論に比重をおいた点が特徴。サブタイトルどおり組織に効果的かつ有効なコーチングの視点からコミュニケーションをわかりやすく解説。経験則+理論の良質なコーチング概論。

管理職研修にコーチングを取り入れた企業が多いなか、コーチングが有効に機能していないという声を聞く。管理職は、コーチングを学んだはいいが、「指示・命令」と違う今までの言動にとまどう。さらに、「所詮はコーチングもビジネストレンドの一つで、いずれ下火になるんじゃないか」という不安。

ただの技術の習得と誤解している企業を見受けるが、コーチングはこれからのコミュニケーションの新たなメソッドと理解したほうがよい。だから企業は、コーチングを技術としてではなく、文化として受け入れるのが肝要。

  • 目次
  • はじめに
  • 第1章 人の可能性を開くコーチング
  • 第2章 コーチングが発揮される環境とは
  • 第3章 コーチングの技術
  • 第4章 グループコーチングの技術「ファシリテーション」
  • 第5章 セルフコーチングのすすめ
  • あとがき

管理職研修によくある設定、「仕事がうまくいかず、モチベーションが低下している部下の話を聞く」。上司役と部下役にわかれておこなうロールプレーの目的は、コミュニケーション能力を高めるため。だが、ふたを開けると相手の話を聞くのは長くて1分。「何をどうすれば聞くことになるのかわからない」、「教え込もうとする」から起きてしまうありがちなシチュエーション。

コーチングは、「知らないことを教える」という見地から、「知っていること引き出す」という思考への変化。対象者が自覚していない潜在的知識やスキルを引き出し、智慧へと高め、結果に結びつける作業がコーチング。

「知」と「知」を結びつけたり、「知」と「新情報」を結んで、これまでにない「結果」を作り出していく。

だがコーチングは万能ではない。仕事のやり方を知らない人にコーチングはできない。その人にまず必要なのはティーチング。仕方とルールを教え、本人が目標をもったときに初めてコーチングが可能になる。

なんでもかんでもコーチングに頼るのでなく、コーチングが発揮される環境を整備しなければいけない。その環境を形成する要素は何か?

  1. 組織および個人が明確なビジョンを持つこと
  2. 社内のコミュニケーションを円滑にすること
  3. 部下の役割を明確にすること
  4. 目標と良好な関係を保つこと

たとえば、1.の組織の場合なら「ビジョン」と「価値観」。ビジョンは組織の存在の根源であり、価値観はビジョンを実現する過程で尊重すべきは何かを言う。この二つは、「判断の基準」を社内に設けるときに求められる。

そして「判断の基準」は、「エンパワメント」された社員が必要とする。エンパワメントとは、一人ひとりが自主的に責任が取れる働き方(自立)をすること。いわば、

「エンパワメント」社員→判断の基準→ビジョンと価値観

というラインがコーチングを発揮させる。コーチングを導入すると、社員はエンパワメントされ、その社員は個人のビジョンをもち、組織に存在意義を問いかける。

その過程では社内のコミュニケーションが重要。曖昧を排除した5W2Hにそった”コミュニケーションの心得(基準)”を作成すれば、問題を未然に防ぐことも可能。

以下、環境整備に必要な3,4.と続き、いよいよ本題である「コーチングの技術」の解説へ。ざっとタームだけを列挙すると

  • ラポールの技術
  • ミラーリング
  • ペーシング
  • バックトラッキング
  • 沈黙の技術
  • 話題集中法
  • 強化の技術
  • フィードバックの技術

とまぁ、説明が理路整然と続き、わかりやすかったのが第一印象。ただ、一度でもコーチング(らしきものも含む)を経験した方は、「簡単じゃないよねぇ」ってため息がもれるのじゃないかな。

まず第一の壁は「耳」。この「耳」がやっかいな理由は二つあると独断と偏見。

  1. 耳が「話すために聞く」こと
  2. 耳が「価値観を持って聞く」こと

1.は、カウンセリングの分野にも登場するけど、人はどうしても自分が話す(話したい)ために聞いてしまう。とことん聞く(傾聴・アクティグリスニング)といった行為がなかなかできない。その行為を難しくしているのが、2.とも関係する。

2.は、本書にも記述がある「観念」について。何かを判断する前に思考するときに、「観念」がある。観念は、人それぞれのものの見方や考え方、価値観。耳には、「観念」というフィルターがついて、相手の言葉が入ってきてしまいがち。

さらに第二の壁がある。それは「感性」だと思う。

できる限り第一の壁を排除して、相手の言葉に耳を傾けたとき、「気づきをあたえる」ために、こちらがひらめかないといけない漠然とした感覚。しかもそれは、誰にでも当てはまる通り一辺倒な気づきのあたえ方じゃない。それには、相手の感情や背景を理解する「観察(力)」が求められるのじゃないかと。

スケッチに例えるなら、24色クレパスを使って白紙のキャンバスに相手の言うとおり絵を描く作業は、一見簡単そうだけど一筋縄ではいかない。絵を完成させるために24色にない色を使いたい欲求もあるだろう。それでも手元にある色を使い、色と色をあわせて新しい色を作って描いていく。そして、さらにいい絵に仕上げるために必要なデザイン力も求められる。

例えにならない例えでスミマセン 🙂

あとコーチングには、冷静沈着・客観的思考・論理的分析といった技術もさることながら、対象となる相手を信じてサポートする気概と情熱がなにより大切だと勝手に得心したかな。