とれるところから搾取する!?

Nikkei NET: 所得課税見直し、4—5年で段階的に実施・政府税調会長

政府税制調査会(首相の諮問機関)は21日、所得税と個人住民税の改革についての報告書を公表した。2006年度に予定している定率減税の廃止などをきっかけに、個人所得課税のゆがみや不公平を是正すべきだと提言。給与所得控除や扶養控除の見直しなどを打ち出した。記者会見した石弘光会長は「4—5年かけて段階的に実施したい」と述べた。ただ増税項目が大半を占めるだけに各方面の反発は必至で、実現性は限られているとの見方が強い。

報告書が公表された日の報道は、大政翼賛会ばりの「大増税時代の到来」一色報道で面食らった。現在の所得税の構造を、諸外国との比較検討も含めて冷静に分析している局は皆無。

今の所得税は、租税法学の見地から税制の中立を検討したくても、「選挙」のスパイスが効いた「経済」とのトレードオフがあったため、つぎはぎだらけの複雑怪奇な制度に陥っている。さらに今までの環境が

  1. 終身雇用と単一の雇用体系
  2. 平均4人家族の専業主婦
  3. 右肩上がりの経済

だし、また、個人が株式市場から所得を発生させるなんて想定していなかった。

先日、財務省から公開された『税制調査会基礎問題小委員会報告 「個人所得課税に関する論点整理」』によると、

累次の減税により、諸控除の拡充のほか、税率の引下げやブラケットの拡大が行われた結果、わが国の個人所得課税については相当の負担軽減が行われてきた。 国際比較で見ても、その財源調達機能が顕著に低下してきている。例えば、租税負担率 (国民所得比ベース)で比較した場合、主要国が二桁の水準であるのと比べ、わが国は ほぼその2分の1程度にとどまっている。特にドイツ、フランスといった間接税中心の
国と比較しても、その負担水準が低くなっている。

その結果がどうかというと、1991年度は26兆7000億円あった所得税収入が、2005年度には14兆3000億円しか税収が見込めなくなったうえ、「給与所得者の8割が最低税率の10%に分布」した。正常とはいえない状態。

比較的単純な経済・社会モデルのなかで取り繕ってきた所得税は、今の複雑化した状況に適応する能力をゆうしていないと認める苦悩が、税調の報告書からもうかがえる。一度白紙にして、再構築したいぐらいじゃないかと。

複雑化した状況とは、

  • 契約、派遣、請負をはじめとする雇用と給与体系
  • 夫婦が共生していく労働への価値観
  • 少子高齢化にともなう社会保障制度の変化

で、上記にマッチした所得税のあり方を検討すると、今回のような提言になったのだと得心した。

今回はこうした「歪み」を是正するためのもので、消費税の税率を上げるといった単純な増税ではないと思う。そのあたりの違いや、サラリーマンにも実態に即した経費を認定させる確定申告の是非を、もっと報道してほしいと希望する。

また、増税が取り上げられるときにセットとなるのが景気への配慮。これも、マクロ的に見れば否定できないのかもしれない。反論するとしたら、減税が「消費効果」をもたらしたといえるのかどうか。

消費というのは、「一人ひとりこれを買ってくださいね」と政府が直接コントロールできるもではなく、あくまで納税者が自分の価値観のもと購入する行動だと思う。たとえば、所得税の減税を実施したから、その減税分が家計のP/L(消費)に計上されるかというと、いかがなものか?

勤労者の8割がサラリーマンという状況下、バブル期の住宅購入者やその後の住宅減税を利用した購入者の貸借対照表に関するマクロなデータを調べてみたいところ。厳しい財務状況ではないかと推測できる。

だとすると、B/S(住宅ローンの返済や貯蓄)に回ることも考えられる。資本から負債への移動、資本から資産への移動と。景気への配慮という言葉は、あまり意味をなさないのじゃないかな。

以上が今回の一連の報道に対する雑感だけど、賛同もできた。それは、「医療費の問題」に手をつけずして、"とれるところからとる"安易な発想に陥るな、という点。まぁ、とれるところウンヌンは、多勢の主観的感想かもしれんので捨象するとして、やっぱり「医療費の問題」は総論賛成・各論反対から前進がないし。

関係諸団体と厚生労働省から猛烈な反対があるから、一向に手つかずの感もある。それでも、30兆円を突破してこのままのペースと仮定すると、近い将来国家予算に匹敵する規模の医療費をどう処理するかは、秀才の方々に委ねないといけないかな。僕には、良策どころから皆目見当もつかないし…orz

いずれせよ、源泉徴収から確定申告へ移行するという意味と移行にともなってサラリーマンはどのように意識を変えていかないと「損」するのかを、批判はほどほどに報道してほしいなぁって、あらぬ希望を抱いた。って面白くも何ともない落としどころでオシマイ(笑