寄付金控除の見直しってやらないよりはるかにマシか

「イエス。最上の制度ではないかもしれないが、これまでの諸制度と比べればはるかにましだから」と答えたのは、経済学者P・クルーグマン。その問いは、「資本主義は生き延びるか?」。

これをそのままギらせてもらうと、「イエス。最上の制度ではないかもしれないが、これまでの寄付金控除制度と比べればはるかにましだから」。と答えるワタクシ。その問いが、7/18日付朝日新聞の社説『寄付文化 税制の後押しで育もう』。一読していつものように愚慮を重ねた(苦笑)

欧米並みの寄付文化を育むために、寄付金をめぐる税制を思い切って見直す。政府の税制調査会がそんな意気込みの報告書をまとめている。

確かに現行の寄付金控除では、寄付文化を形成できない。約2万6千ある公益法人のうち、「特定公益増進法人」に該当するのは、900ほど。つまり、それ以外の団体に寄付しても、税制上の優遇を享受できるかどうかはあやしい(=節税を目的とした寄付が見込めない)。NPOが登場したので、もう少し範囲は広がっているとはいえね。今回は、「公共性のある法人」を増やして、納税者が寄付をしやすいようにしようって、”税制面から支援”するお話。

じゃあ、事はそう簡単に進むかというと、いささかギモン。何が問題か?それが、”寄付文化”と書かれているように、「文化の根底にある意識」。ここからは、1次情報でないとお断りして先へ(ォ

まず、個人資産の考え方が異なる。「一代で、資産を使い切る」もしくは「相続した資産はオレのもの(ゆえに何に使おうが勝手)」と言動するのが欧米かと。例えば、総資産約5兆円と言われるビル・ゲイツ氏。氏は、「生前までに総資産の95%分を寄付する」と表明している。まぁ、5兆円の5%が残っても莫大な資産だけど(笑)。

続けて相続した場合。相続した人が、「オレは寄付するんだぁ」って宣言したら、周囲(主に親戚筋)は、口をはさめない。これは、「数学的論理思考」も背景にあるかと。だから、資産家の2・3代目には、「寄付を生業」みたいにしている人もいると聞く。

この「寄付を生業」という奇妙な感覚に、日本人と欧米人の相違があるのではと邪推。裏側に秘められた「名声・名誉」が、寄付行為に駆り立てる動機につながるかと。アイロニーを含んだ名声・名誉じゃなく、「真にリスペクト」される栄誉とでも言うのかな。

ここでの例示は、ヘッジ・ファンドの帝王、ジョージ・ソロス氏。氏は、東アジアの経済を木っ端みじんにしたことで悪名天下にとどろいている。との声もあれば、金融の天才と賞賛されている。

ところが、氏の世界中での慈善活動が、欧州を中心にリスペクトされ、今では慈善家として多とされている。おまけに反グローバリズムの急先鋒として、先の米国大統領選では、全資産を擲ってでもブッシュ再選を阻止すると鼻息が荒かったのも手伝って、名声とどまるところを知らず。

ここまで世界トップクラスの資産家に登場してもらったけど、寄付行為は何も資産家だけの特権じゃない。関連文献をあたれば、欧米の場合、日本の平均年収に遙かに満たない人が「5,000円/月とか10,000円/月」と寄付している実情も紹介されている。それが、社説にあるくだり。

日本の1家庭あたりの寄付金は年間約3千円と米国の60分の1ほどだ。企業同士の比較なら米国の3分の1程度なのに、個人でこれほどの差がつくのは、寄付文化が定着していないからだ。

つまり、「資産を残そうと考えて、形無き名誉に執着しない」日本人と、「資産を使い切ろうと考えて、形無き名誉に畏敬する」欧米人との意識の違いがあるんではないかと愚考。税制の優遇を享受するだけが目的ではない。

加えて寄付をする人だけでなく、「寄付をしている人を横目で見ている人」の認識の温度差もあるのかと。「社会に貢献した資産家・貢献していない資産家ランキング」の貢献している資産家第1位は、ビル・ゲイツ氏。MSの悪評と人物の好評をセパレートしているあたりが、なんか米国人らしいなぁって得心。

さらに愚考に愚考を重ねると、前述の意識を形成してきた底流に、「市民」が脈々と息づいているのかってね。

「政府」でもなく、「市場」でもない、民主主義の第三の担い手「市民」。まぁ、今、憲法について欧州との違いなんかを読んでいるから、バカの壁状態になっているかもしれんけど。

長々とノーガキってきたけど、これで最後(ォ。これまでの言説に加えて、決定的に違うんじゃない?って思う点を卑見してオシマイ。それが、「寄付の使途を監査する機能」。

またまたビル・ゲイツ氏曰く、「マネジメントよりも難しいことがある。それは、自分の資産をどこに寄付すれば、最高のパフォーマンスを発揮してくれるのかを精査すること。」

これは、おそらく税金の使途を監査する機能とも関係しているのでは!?

税金の役割は、以前に述べたように「所得の再分配」という機能を果たしている。置換すれば、それは、国が勝手に意志決定できる「お金」。実は、寄付も同じようなもの。「所得の再分配」行為にあたる。ただ、「税金」と「寄付」の両者について、意志決定者が、「国家」か「本人」かだけ。

本人が意識決定する「寄付」という巨大市場では、ユニセフや海外NPOの人道援助産業がコングロマリットを形成している。ちなみに、ユニセフの公式HPによると、2004年の日本の援助額は、約1億5千万ドル。米国、英国についで世界第3位。

にもかかわらず、ユニセフの現場で活動する人の割合は、未だ欧米人が圧倒的に多いと指摘されている。先のスマトラ地震では、日本人が報道のシーンに登場するようになったけど。

人道支援産業に関して、日本は、「カネはだすけど、口はださない」って、ある意味湾岸戦争真っ青の轍を踏んでいる。「監査」が機能していないのかもしれないな(泣

余談として、米国には、「私の資産をどこに寄付したらよいかしらなんて人のためのサイト」もある。自分で探してねってことで、DB化されている。

色々回り道してきたけど、税調から今回のような提言があるのは、一歩前進で賛成。寄付先進国にキャッチアップできるだけのインフラが整備されていないし、コンセンサスもまだまだ得られていない。それでも、これからでしょ、前を向いてね。

だから、「イエス。最上の制度ではないかもしれないが、これまでの寄付金控除制度と比べればはるかにまし」なんで、応援。がんばっしょい。