数学的思考法

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書とても参考になった。「How to系かな」と不安もあったが、そうではない。タイトルどおり、「事象を数学的に思考するための根本」を易しく説いている。専門用語をそのまま用いているあたりに崇高さを感じる。数学の知識がなく、かつ理解度の低い愚生が読んでもすんなり腑に落ちたのでなおありがたい。

数学で学ぶ考え方のなかには、経済やビジネスだけでなく、社会問題であれ政治的問題であれ、身のまわりのさまざまな問題を考えるときにヒントになるものがたくさんある。そして「説得力」においても、算数や数学で学んだ論理性が大いに役立つはずだ。数学者の立場から、そうした思考と説明の技術やヒントをふんだんに紹介しようというのが本書の主眼である。『数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書』

「1変数的発想」と「多変数的発想」———-会話のなかでいきなりこんな単語を耳にしたら目を丸くするかもしれない。この単語を本書では以下のように説明する。

難病の治療法にA(飲み薬)、B(温泉)、C(食事)があったとする。この場合、「A,B,Cを組み合わせるといくらか改善するでしょう」と説明するのが適切であるはずだ。ところが、「Aだけ毎日飲み続けると1ヶ月後に完治します」と宣伝されれば、どうだろう?おそらく、Aを求めて薬局に人が集まってくるのではないか。

「ある一つの要因だけで解決する」と言われれば、関心がそちらに集中してしまう。難題を解決しようとするとき、解決要因を1つに求めてしまいがちになる。愚生が例示するとしたら、経営の問題でも心当たりがあるし、引いて眺めれば、健康番組はど真ん中でないか。

一方、いつも多くの要因をあげる(あげたがる)人もいる。例えば、目の前にいる女性が

「身長は高くて、体重もそこそこあって、それにバランスのいい体格で、毎年指輪を買ってくれて、そうそうネックレスもね、それから、英語もできて、機械類にも強くなくちゃ困るわ。年収も最低1000万はほしいし、結構教養もなくちゃね」

と言ったとする。数学的にいえば「多変数的発想」である。この女性の意見にどうふるまうか。愚生なら「身長は高くて…..」と聞いた刹那、右から左へスルーする。ゆえに、「解なし」だと解答した。先生はというと、「さすが」と呻って頭を垂れた。本書の模範解答に感心。

模範解答は割愛するが、「1変数的発想」と「多変数的発想」の均衡を保つために、どんな「解」が導き出されるのか。それが、「解決のためには"要因の個数"に留意せよ」だ。要因の個数が1つでも問題あるし、多数でもしっくりこない。ましてや、「結論だけ症候群」など論の外であろう。

上記のように数学の専門用語を日常の事例に置換して、「数学的思考法」をとっつきやすく説明している。

にしても本書のなかで、いちばん印象に残ったのが、説明文ではなく「本題からはずれた何気ない一文」だった。そこへ付箋を貼った愚生はいったい何なのだろう?なぜこんなところに付箋を貼ったのかと首をかしげる。右、付箋の箇所である。

国際化の本質は「相違なる環境で育った人たちが、「自らの立場である『仮定』とそこから導かれる『結論』を明らかにし、異なる立場の人たちとの間で共通の認識をもてるように努力する」ことであるからだ。同P.49

この文意を「置換」して考察してみたい。「置換」は、—第3章「数学的思考」のヒント 3-4 対象を「置換」して考えよう—から拝借。余談、茂木先生は「主語を変えて考察しろ」と言う。何を置換するのか。続きはのちほど