日本語の作文技術

新装版 日本語の作文技術ロングセラーかつベストセラーの文庫版『日本語の作文技術』が新装して単行本になったので購入してみた。著者の毀誉褒貶を意に介さずに読めば、参考になる記述が多い。主なテーマは、「修飾の順序」「句読点のうちかた」「助詞の使い方」であり、一読して「なるほど、そうか」と膝を打った。得心とのひきかえに、外国語や文法上解釈に対する排他的とも思える筆者の見解には閉口した。

漢字をいくら沢山おぼえても、またいくら古典を暗唱したり旧カナが書けたりしても、そんなことは作文の勉強に直接的には関係ありません。作文は技術であって、記憶力やクイズ式受験への適応能力ではないのですから。私のいう作文というのは、とにかく単純明快、読む側にとってわかりやすい文章を書くこと、これだけが到達すべき目標のすべてです。『新装版 日本語の作文技術』

文章についてずっと悩んでいることがある。以下5つ。

  1. 「が」と「は」の使い分け
  2. 「を」と「に」の使い方
  3. 句読点の打ち方
  4. 主語と主格の扱い
  5. 論理的な接続詞の使い撹

この悩みを解決したいために、今まで「てにをは」から「文章術」まで数々の書籍に手をのばした(いまでものばしている)。本書は、上記5つのうち1.-4.まで示唆を与えてくれた。1.,2.については、第6章の「助詞の使い方」で、3.は第4章「句読点のうちかた」で述べられている。4.への解釈については、本書全般にわたって筆者の見解が散見される。

4.についていえば、本書は「日本語に主語はいらない」説をとっている。たとえば、書き手の方なら以下の文章にハッとしないだろうか。

「象は鼻が長い」

この例文に対する筆者の見解が本書でのべられている。結論だけを述べると、「象ノ鼻ガ長イコト」の連体格「ノ」を「ハ」が兼務している。主語は明確にするべしと考えていると、このような文章に遭遇したとき頭がこんがらがる。でも意味は通じる。三上章氏の『象は鼻が長い―日本文法入門』に登場する有名な文章で、この例文でいえば、「主語はなくて、主格がある」となる。

「象は鼻が長い」をどう解釈するか?—–文法に無知な愚生はアカデミックにまかせたい。ただ、このような文章が複文になって節を結んで長文になれば、やっぱりわかりにくいだろうと思う。実際、「が」と「は」を感覚でさばいているために、わかりにくい文章を書いている己に気づく。他方、仕事柄アタマを抱えてしまう文章に出会う。その例をあげる。抽象化しているのでご容赦を。

a. 私は、AがBだと思う。

と書きたいのに、

b. 私は、AがBだとCである。

スカタンなのでうまく例示できない。要は、a.の私にかかる「思う」が抜けてしまい、結果、b.の「私は」にかかる述語がなくなる—–ということを述べたい。

「が」は他の意味でもやっかいだ。今まさにでいえば、「例文は短いのでしっくりこないかもしれないが」の「ガ」だ。本書でも少し紹介されているこの「ガ」は、接続の意味(接続助詞)で使用している。本来、このあとには、「否定」を意味する文がつづく。読み手も接続助詞「ガ」が飛び込んでくると、一瞬「否定」を予想しながら読みはじめないだろうか。しかし、接続助詞「ガ」は、「けれども」という意味ではなく、因果関係を示すでもなく、「そして」という程度に使われる場合がある。

助詞についての筆者の説明は、とても参考になった。他にも、第3章の「修飾の順序」は、修飾を多用する人にとって気にとめておいた方がよいと感じた。例えば、次のような"1枚"の紙があったとする。

  • 白い紙
  • 横線の引かれた紙
  • 厚手の紙

これを

「白い横線の引かれた厚手の紙」

とすれば、おかしいとすぐわかる。

「厚手の横線の引かれた白い紙」

これも「まさか」の誤解があるかもしれない。厚手の横線(?)と読むかもしれない。

  • 白い厚手の横線の引かれた紙
  • 横線の引かれた白い厚手の紙
  • 横線の引かれた厚手の白い紙
  • 厚手の白い横線の引かれた紙

あっ!少しそれる。今、上の例文を一気にたたいたら、ATOK2005(Mac版)に「修飾語が連続しすぎ!!」って怒られた。便利な機能だ。というわけで、ATOK2005も指摘するように、例文は「極端」であるけれども、どれがしっくりくるだろうか。筆者は、BかCであると言い、その理由も本書で述べられている。

登場する例文は、例文自体に小首をかしげてしまう。とはいえ、そういった揚げ足をとらずに素直に読みすすめていけば、筆者の主張がかみ分けられる。新聞や小説から文章を引用し、その誤りを指摘している理由にも納得できる。特に、新聞や小説の引用文は、ふだん愚生も書くような間違いを起こしているものも多分に含まれているので自戒しながら読めた。

本書の醍醐味は、「主語有害論」と「句読点のうちかた」にあると思う。普段何かを書いていてもうひとつしっくりこなかったり、名文ではなくてもとにかくわかりやすく伝えたいと考えている、といった方々にはおすすめ(かも)。