ヤバい経済学

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検するまさしく"ヤバい"。久しぶりに爆笑しながら読んだ"経済書"。ポール・クルーグマン以来のインパクト。邦題も原書のタイトルも専門家の間では不評らしい。私のような無知蒙昧の輩にはアイロニカルでしっくりきた。

何が「ヤバい」のか?

銃とプール、危ないのはどっち? 相撲の力士は八百長なんてしない? 学校の先生はインチキなんてしない? ヤクの売人がママと住んでるのはなぜ? 出会い系サイトの自己紹介はウソ? 若手経済学者のホープが、日常生活から裏社会まで、ユニークな分析で通念をひっくり返します。アメリカに経済学ブームを巻き起こした新しい経済学の書、待望の翻訳。『ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する』

  • 不動産広告の「環境良好」の隠された意味って?
  • 90年代のアメリカで犯罪が激減したのはなぜ?
  • 勉強ができる子の親ってどんな人?

答えは、ナント…..

  • 周りの家はいい物件だがこの物件はイマイチ
  • 中絶が合法化されたから
  • 母親が第1子を30歳以上で出産.高学歴・高収入

本書のテーマは、「インセンティブと因果関係」をつきつめることにある。相関関係だけで終わらない。因果関係まで探索する。例えば、引用部分にある相撲の力士の八百×(おっと怖すぎて書けない)について。筆者によって下記のデータが算出された。

  • 7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する期待勝率 48.7
  • 7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する実際の勝率 79.6
  • 7勝7敗の力士の9勝5敗の力士に対する期待勝率 47.2
  • 7勝7敗の力士の9勝5敗の力士に対する実際の勝率 73.4

誤解のないようにしておきますと、この数値は「八百×」を証明するものでもなんでもない。とはいえ、上記の数値を合理的に説明するのは難しい(と思う)。「何か」が働いている可能性が高い(かもしれない)。「インセンティブと因果関係」—–魅惑的な言葉。ご丁寧に「八百×報道」の後の取り組みを同じように測定してみると、「7勝7敗で千秋楽を迎えた力士の、8勝6敗の力士に対する勝率はいつもの80%ではなくただの50%」になった。データをどういじくっても同じ答え。

閑話休題。愛読しているbewaadさんが本書についてレビューしている(スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー「ヤバい経済学」)。

昨今の政治課題である公務員の人件費削減ですが、必要な頭数を揃えつつ劇的に単価を下げる手法があります。ごく限られた幹部職員にはプロ野球選手をしのぐ現役としての収入と戦前の公務員をしのぐ恩給を与える一方、末端の職員には生活保護水準程度の収入しか与えないようにします。もちろん残業はすべてサービス残業で、諸手当も全廃です。

一読して納得。というのも、私もbewaadさんにまったく同意見。私の友人や諸先輩の方々も同調している。なのに声高に主張されている様相を寡聞にして知らない。このあたり何だか「報道の妙」が潜んでいるように邪推してしまう。bewaadさんのような政策がなぜうまくいかない、もしくは実現できないのかが本書で説明されている。

  • 経済的インセンティブ
  • 社会的インセンティブ
  • 道徳的インセンティブ

この3つのうち「何を優先的に選択するか」によってオペレーションが異なる。もちろん、「均衡を保つ」ような政策を是とすれば、見方によっては「玉虫色」になる。

選択したオプションが裏目にでた事例がある。保育園に迎えにくる親の話だ。午後4時までに迎えにこない親に対して、どうすれば守ってくるか苦慮したあげく罰金制度を導入した。10分以上遅れた親には毎回子ども1人につき、3$の罰金を課した(罰金は380$の月謝に上乗せ)。結果はどうなったか。

遅刻してくる親が倍以上になった。

なぜか?本書を読んでのお楽しみ。スティーヴィン・D・レヴィットのような人をgeniusと呼ぶのかなぁと納得。とにかく「ヤバくてスゴい」。

本書を読んで興味を持たれたかは以下もオススメ。『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』は日本版「ヤバい経済学」。

行動経済学 経済は「感情」で動いている

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには