review

[Review]: 東京国税局査察部

Leave a comment

東京国税局査察部 (岩波新書)

あらためて思う。国税局に逮捕権が与えられていない事実があり、その事実が与える影響について。たとえば証券取引等監視委員会も同様である。もちろん逮捕権の乱用がもたらす影響も考慮しなければならず、なかなか一筋縄でいかないのが実情だと思う。摘発の表舞台の主役は検察であり、逮捕・起訴できない東京国税局査察部がどれほど「黒衣」であるかは本書を読めばわかる。そしてなによりも「政・財・官」の所業にあらためて愕然とする。おどろおどろしい蜘蛛の巣のごときはりめぐらされた人脈から捻出される表に出せない金が繰り広げる群像劇。凄まじい。脱税は麻薬。

創設50年を迎えた「マルサ」.すぐれた情報収集力と金の動きの解明能力で,ねずみ講事件,ミズノインターナショナル事件,金丸脱税事件をはじめ,企業や政治家の巨額脱税を数多く摘発してきた.内偵・実施の2班はそれぞれどのように調べ,どう核心に迫るのか.脱税者たちの巧妙な手口に挑む「マル査」のたたかいと人間ドラマ.

『東京国税局査察部 (岩波新書)』 立石 勝規

国税庁、12の国税局(沖縄は事務所)が擁する職員は五万七千人(本書執筆時点)、それらの職員には厳格な「守秘義務」が課せられている。よって彼らから脱税事件の内容について語られることはない。一切禁止されている。しかしいきなり私見を述べると、この記述は確かでないと思う。というのも大企業を除いたとしても衆目にさらされる「報道」を私たちは目にする。脱税ではないけれどH本弁護士、ベタ記事扱いだけど内実悪質だろとツッコミたくなるタレント・歌手K沼E子氏など枚挙にいとまがない。

国税当局は自ら語らないゆえに「沈黙の艦隊」と呼ばれる。そして「沈黙の艦隊」の屋台骨を支える査察部はまさに「黒衣」である。査察部が「黒衣」に徹するもう一つの理由がある。それは査察部に逮捕権があたえられていないため事件を最終決着できないという現状だ。ワールドカップ盛りの今、サッカーで言うなら査察は上がらないディフェンダーであり、検察(特に特捜部)はフォワードだ。その東京国税局査察部が一度だけ表舞台に顔をだした。それが、1993年3月27日に総額10億4000万円の脱税(所得税法違反)で追起訴された金丸脱税事件である。その時開かれた記者会見で東京地検特捜部は冒頭次のように呼べている。

「国税局などの協力で捜査が順調に進展したのは幸運だった。感謝したい。捜査は膨大で過酷だった」

感謝したい国税局が東京国税局査察部であり、膨大で過酷な捜査の様子が本書の前半部分で述べられている。時効が目前にせまるなか信じられない短期間の着手で摘発できたと思う。この事件がのちに政界再編をもたらし、自民党一党支配に幕を下ろさせたことを考えるとあらためて黒衣の貢献の度合いは計り知れない。

しかし人はなぜ脱税をするのだろう。私は以前会計事務所に勤めていたので、国税局なんて遠い場所にあるにしてもこの疑問によくぶつかった。本書には脱税についておもしろい指摘がある。それが「脱税、5つの宿命」だ。

  1. 税務署に確定申告しなければ、脱税をはじめられない
  2. いくら悪知恵を絞って複雑にしても、手口は基本的に三つしかない
  3. 二重、三重帳簿をつくろうとも、ほんとうの帳簿がなければ脱税はできない
  4. 脱税資金を現金のままで置いておけない
  5. 脱税は麻薬のようなもので、一回ではなかなかやめられない

この5つは金丸脱税事件にもおもしろいほどあてはまる。特に5.には寒気がする。ゼネコンの役員が紙袋に入れて金丸事務所へ運ぶ裏献金は年間10億円を超える。それら経費のかからないカネが金丸氏自身の懐へ入ったのは総額40億円に及ぶ。さらに40億円では飽き足らないとの思惑からか「利子」がつく割引債を購入した。結果的にそこからアシがついた。つもりつもって40億円。しかもこれは「摘発」された金額であり、時効を含めた金額を自分なりに想像したらまさに「麻薬」だと感じた。

ところでこの5つの宿命に書かれた内容について「反対」を考えると思わずヒントも得られるかも知れない(あまり詳しく書くと事業主なのでまずい。真意をくみとってくださるように)。

後半部分は東京国税局査察部がどのようにして誕生したかや国税庁の歴史、また他の巨額脱税事件の手口を扱っている。正直少し散漫としている感がある。とはいえ、筆者の訴えたいことを読み取ろうとすれば、登場する話題そのものは「字面」であって、事件の裏にひそむ「銀行の所業」や「日本株式会社の地下金庫」が透けてみえてくる。特に戦中から戦後にかけて蓄財してきた日本株式会社地下金庫の水脈規模は想像を絶する。カネがばらまかれ、そこにはするどい嗅覚をもつ魑魅魍魎が跋扈している。その様相を現実として受け止めたとき、今もたえない狂騒をクールに眺められるのではないだろうか。

最後にあらためて再確認した。それは、刑罰を科する分量が軽いという点である。重くすれば無くなるかと問われれば、”否”と答えてしまうけれども、経済事件に対してどうしてこれほど軽いのだろうと首をかしげた。

一例をあげておく。今年2月、日本の国税庁にあたるアメリカのIRS(米国内国税歳入庁)は通信関連の企業家ウォルター・アンダーソンを脱税容疑で起訴した。連邦税と州税を合わせた脱税額は個人としては米史上最大の2億ドル(約210億円)。もし有罪となった場合の最高刑は懲役80年である。

It\'s only fair to share...Tweet about this on TwitterShare on TumblrPin on PinterestShare on Google+Share on Facebook

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。