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[Review]: 経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには

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経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)

かつて「三高」という言葉が流行った。三つの”高い”は「高収入・高学歴・高身長」だ。そのうち、高学歴と高所得は密接な関係をもっている。高学歴は高所得と高い相関関係をもっている。

ところで「高い身長」は経済的な属性と何か関連するのだろうか。ここに興味深いデータがある。アメリカの大統領選挙では過去13回のうち、10回の選挙で「身長が高いほうの候補者」が勝っているというデータだ。歴代アメリカ大統領の身長は、その当時のアメリカ人の平均身長よりも高かったらしい。

ペルシコ教授らは、計量経済学的な分析により、身長が一インチ(二・五四センチメートル)伸びると賃金が何パーセント高くなるかを明らかにしている。その結果、一インチ身長が高いと、イギリス人男性では時間あたり賃金が二・二パーセント高くなり、アメリカ人の白人男性では一・八パーセント高くなることを示している。

『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)』 大竹 文雄 P.8

俗に言う「身長プレミアム」。他にも「美人の経済学」とよばれる研究も。アメリカ、カナダ、中国のデータを用いた研究で、面接官の主観的判で「美男美女度」を計測し、それらが賃金に与える影響を計量経済学的に分析している。驚くような結果が本書で紹介されている。日本では1998年に人材派遣会社の名簿が流出しネット上で売買された事件で、その名簿に「A・B・C」というランクが記載されていたと判明した。

経済学が経済学たるゆえんは、これらを倫理の観点から論じない。数値をもとに社会現象の意思決定メカニズムを考察する −−−−− それが経済学的思考法。

考察のキーワードは、「インセティブ」と「因果関係」。たとえば、「身長プレミアム」なら「背が高い」という要素と「高い収入」という”相関関係”はデータによって裏付けられた。しかし、”因果関係”まではわからない。それらにどのような因果関係があるのか。「経済学的思考のセンス」は、どの因果関係であれば合理的なのかまで踏み込んでいく。

前半は軽いノリで「プロ野球監督の能力」を評価してみたり、「賞金とプロゴルファーのやる気」と題して理論モデルと整合性を図っている。ちなみにプロゴルフ競技において「賞金総額が大きい大会ほど選手の成績がよくなる」ことが発見されている(賞金総額が大きいと能力の高い選手が集まるからではない)。

そして前半のノリから一転して後半は年金未納と所得格差を考察。所得格差の考察は今の論調とは異なる角度から知見を与えてくれる。「所得階層間移動仮説」によれば、所得階層間の移動率が低い社会ほど左派にくわえて所得や資産の低い人が不平等を不幸だと感じる。ヨーロッパがあてはまる。本書は日本もややこれに近いと分析している。

機会の不平等や階層が固定的な社会を前提として所得の平等主義を進めるべきなのか、機会均等を目指して所得の不平等そのもをそれほど気にしない社会を目指すべきなのか、我々は真剣に考えるべき時期にいる。同P.220

所得階層間の移動率が低い社会は、「就職時期」によって生涯賃金が確定する。だいたい就職時期は限定されている。日本は新卒の一時期に就職機会が集中する。そしてそれらの結果によって生涯賃金が確定していた。さらに「好景気の時に就職するほうが、生涯賃金はそれ以外にくらべて高い」というデータも算出されている。

政治でも「所得格差」の議論

昨テンプレート的にまとめると小泉首相の5年間は、「機会均等を目指して所得の不平等そのものを気にしない社会」をもたらした。その結果、歪みが生じた。歪みを受けて、「機会の不平等や階層が固定的な社会を前提として所得の平等主義を進める」方向も考慮しなければならないと国論が割れている。安倍晋三官房長官はいちはやく「再チャレンジ」なんてフレーズを打ち出した。

私はそんな割り方に小骨が咽につきささっている。構図は右。

「所得の平等か機会の均等か」や「大きな政府か小さな政府」を二項対立させず、国と市場とは違う第三の存在、「新しい民間」が税制や社会保障の不備を補完する役割を担えないだろうか。そんなふうに私は愚考する。第三の存在を資金的に援助するのが”富”の持ち主。「善意」に頼りすぎているとも思う。

国の機能を「防衛、治安維持、(最小の)福祉に限定する」といった論や国家像なら今の私は支持する。(可能であるならば)そのようなビジョンを「インセンティブと因果関係」から考察する「経済的思考のセンス」を読んでみたい。

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