Yes・yes・yes

昨日、偶然に偶然がかさなった。ミーティングが終わったあと、別件で”少し”だけ残った。その「偶然」が偶然をよんだ。天に感謝する。その一瞬を愉しむ。そしてまたもや偶然からとびだした単語がこの本を走馬灯のように浮かび上がらせた。10年以上前に読みふけった。ゲイバーが舞台。作者の妖艶な顔立ちに思わずドキっとしたのを鮮明に覚えている。

ぼくらはおそれながら待ちこがれた—–。夜の街をさまよう少年たちの、甘く、残酷な愛の冒険を鮮烈に描き出して、若い世代の圧倒的な支持を得た1989年度文藝賞受賞作品。世紀末の生と性のかたちを問う新しい時代の文学の誕生!『Yes・yes・yes』

本書に登場する”相手”は変わった奴らばかり。ファットなおやじ、爺、自衛隊、馬の鳴き声を強要する男、歌舞伎のママ….etc。全編そんな奴らとのからみに彩られている。その時の「少年」の気持ちを綴る。奇妙なほどに不思議。グロな雰囲気を感じない。距離のある世界だからか。そう思うのも、「今」だからなのか、「昔」もだったのか、記憶のなかの情感をたぐりよせようとしても不可能。もう判別できない。パラパラとめくって眺めてみた。やっぱりどこか清涼感のような香が。

ジュンという少年は、「自己破壊」のためにゲイバーの扉をたたいた。「わずかの金と引き換えに、自分をボロ雑巾のように、人形のように扱われること」を求めて。ジュンと彼をとりまく少年たちは夜の街のなかでセックスを売っていく。そして、彼らは自らの性経験を屈託ない調子で互いに語る。男「性」。作法から趣味趣向まで。ほんの少しの隠語を肴にして。

「生」と「性」の会話が少年たちの間で交わされていく様。今の私には刹那と映りかけていても、10年以上前の私は何か羨望のまなざしで見つめていた。理由は思い出せないし、わからない。とにかく刹那なように見えて、実はそうでもなさそうな彼らに魅せられた。「ああ、オレはいくら自分を壊したくても、金と交換でも”コレ”はできないな」と何度も胸にきざんだ。エピローグの最後、Yes.Yes.Yesがやってくる。

「どうだ、おい、気持ちいいか?」男の声が僕の上で響いた。僕は男に愛しさみたいなものを感じてきている。お願いだから、もっと汚く、ひどく、僕を侵してくれ。薄汚い欲望で僕を壊すほどに踏み躙ってくれ。僕はシーツから男の背中に手を回した。目を開け、天井の鏡を見ようとした。が、僕を映す鏡はもうどこにもなかった。僕はただ、ただ、こう叫んでいた。「うん、とっても、とっても気持ちいい!」。はははっ、この気持ちに”嘘”はない。同P.239-240