永遠の抱擁

5000年前の男女がイタリアで発掘された

近郊で、5000─6000年前に埋葬されたとみられる抱き合った男女の遺骨が見つかった。発掘調査チームの責任者、エレナ・メノッティ氏は、「これまで新石器時代に2人一緒に埋葬された例はもちろん、こんな風に抱き合った形で発見されたことはなく、驚くべきケースだ」と語った。

ともすればわずか数百年前の本邦を「遅れていた」と見なしてしまう。それが、5000年前であれば言わずもがな。しかし、それは文明や技術の先進に照準をあてているからそう断じてしまう。さすれば、今もあと数年後には「遅れていた」と見なされる。

人類の歴史を1年のカレンダーにたとえるなら、現代のような言語を駆使して知性を宿すようになったのは、12月21日といわれる。歴史全体のわずか3%にすぎない。

12月21日以降、わずか5000年前にも男女が抱擁して埋葬されていた。状況から若くして亡くなったらしい。

二人はどんな生活をしていて、なぜ死亡したのか、亡くなった時期は同じ頃か。それらの背景はこれから専門家の手によって解明されていく。

愚昧はただ愚考をめぐらせる。「永遠」に焦がれて埋葬を願ったのだろうか。その日の糧をみなで稼ぎ、かわりゆく季節を焼き付け、ときにはデートをしたり。

もし、この二人が何らかの形で関係をもっていたなら、誰に永遠の抱擁を頼んだのか。それを引き受ける人がいたから発見された。そこに情感が交差していた。阿吽の呼吸のように。二人とわたし、どちらかが幸せかは愚問。問い自体が存在しない。とはいえ、羨ましいとしたら、ただひとつ。永遠に抱擁できるような死に方ができ、その人が傍らにいた事実。そして、永遠の概念を理解していた感性と情熱。5000年前の心に私は魅了される。