diary

すべてを気づける?

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2010.04.18 晴れ

「話が通じているよ」17歳の彼女は云う。

(エッ?! 噛み合ってないよ)「お世辞? どうしてそう思う?」と僕は訊ねた。「しゃべっていることを理解できるもん」

(理解? じゃぁ、疎通は?)「理解してもらえているなら嬉しいな。ありがとう」

「でも、どうして通じているの? お父さんは43歳だけど、通じないよ。あなたには通じている。ちょっとしか歳が変わらないのに」

(そうか、5歳下でも、お父さんと僕は”ちょっと”しか変わらないのか)

「わからないよ。ただ、括弧にくくるようにしているだけ」と僕は戸惑いながら答える。

「括弧に括るってナニ?」彼女の目は僕へ、口はカフェモカに接近する。

「21年分の記憶と経験を消去するってことかな。で、17歳の自分を想像する」

「想像? 思い出すのじゃなくて?」彼女の口はカフェモカへの接近を試みるけど、猫舌が接近を阻む。

「思い出す、はダメ。思い出すって、ウソの記憶を造る。21年の経験と思考は、理想や欲望を過去の記憶にすり込んでいる。すり込んでいるのは自分だけど、記憶は偽造されてから正式な記憶になるから。だから、消去する。もし、あなたが、僕との会話を通じていると思うなら、2人が折り合っているからと思うよ」僕は春を感じさせる彼女の洋服から目をそらした。

「折り合うって?」

「うん、えっと、21年を括弧に括った17歳の僕がいて、これからの21年をイメージしたあなたがいたとしよう。その2人がどの年齢で釣り合っているか知らないけれど、話を合わせられるようにがんばっているってことかな」

「38歳の私なんてイメージできない。イヤ。ゾっとしちゃう。自分が38歳になるなんてどんな気持ち?」彼女の舌はカフェモカを甘いとようやく認識できたみたいだ。甘さがしかめっ面にしたのか、38歳がそうしたのか判定が難しい。

「確かに。そのとおり。21年間をイメージしろなんて無茶かな。ただ、この歳になるとね、気づいてほしいって思ってしまうから。どうしてだろ? 自分が何かを始めたとき、例えば、クラブへ入部したとき、お稽古に通ったときとか、何にもわからず不安だったはずで、先輩たちは不安を少しずつ取り除いてくれた。なのに、自分が先輩や教える立場になると、気づけよって苛立ってしまうのは」

「わからない。でも、それってワガママだよね」

「我が儘? なぜ我が儘?」

「だって、大人は気づけよって言うけれど、じゃぁ、大人はすべてを気づいているの?って思う。お父さんは私のすべてを気づいているの? 先生はすべてを気づいているの? だから説明して、教えてってお願いしたら、逃げちゃうし」

「なるほど。逃げるか。確かに逃げてるね。17歳から今まで連続しているはずなのに、断ち切っているのかも。それに、すべてか。すべての定義が必要だけど、すべてを気づくって意味を考えたことなかった。そうそう、あっ、山本五十六って知ってる?」

(シマッタ。これはマズイ)

「知らない」彼女の唇が戦闘態勢に入った。カフェモカを飲むためじゃないのは一目瞭然。

「昔の人でね、”やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ” “話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず”って言葉を残したんだ。でもね、コレって、座右の銘になったりするんだ。大人って言葉が好きなのに、言葉を尽くして話し合うのは避けたがるよね」

「座右の銘ってキライ。座右の銘をしゃべって満足している人が多いような気がする」

(ヤラレタ)

「まぁ、そういう人もいるかもしれない。とにかく、気づいて欲しいってワガママはステキな指摘。だって、そうか、そうか。気づいて欲しいって願って、気づけば、問題なんて発生しない。問題が発生するから気づいて欲しいじゃなくて、気づかないから問題が発生するわけで、だから、問題が発生するって苛立っていたら、自己撞着だ」

「マーくんって興奮すると、しゃべり方が意味不明だし。そいういうところちょっと苦手。1人で理解して1人で喜んでるし。なんかぁ、その興奮状態が、”オレの言いたいことに気づけ”ってアピってるみたいでッ。マーくん、自分で考えなさいってたまーにアドバイスくれるけれど、自分で考えるってナニ? ホントに考えてる? 本やネットの受け売りもあるでしょ? 先生も考えろって教えてくれるけど、考えるって意味をちゃんと話し合ったことないのに、考えろって言われても、なんだかヘンな感じ」

カフェモカの白い蓋に付着した淡色と間違いなく僕のデニムの裾をおらずに着こなせるはずの細い足を見ている僕はすでに自分で考えていない自分に気づいた。無限の気づきの中から僕が認知したたった一つの気づきが真実であるかどうかはわからない。

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