暮らしのヒント集4

暮らしのヒント集4 (暮しの手帖 別冊)

書店で目にしてはじめて買ってみた。楽しく読めた。第1章30代、40代, 第2章50代、60代, 第3章70代と年代別の章立て。各年代の暮らしを紹介している。そらぞらしいコピーやおおげさな文章はなく、暮らしぶりが淡々と書かれている。それを表す写真。読み手の腰をいますぐにでも上げさせそうな「暮らしのヒント」と取材したすべての人へ「同じ質問、それぞれの答え。」が添えられる。”ヒント集”、膝を打つネーミング。読んでも真似できない。同じ道具を買いそろえても暮らしぶりは文のようにならない。”それぞれの答え。”を実践しても感じ入りかたは人それぞれ。

でもヒントになる。たとえば服部みれいさんの暮らしのヒント1は、「かばんを地面に直接置かないように気をつけています」は、ドキっとした。電車に乗っていたらつい床に置いてしまうときがある。混雑の車内に乗り込んだら鞄をおろす。両足を揃えて足の上に底を置くよう心がけているが、鞄の一部は床についてしまっている。うっかり忘れて直接床に置いてしまうときも。

暮らしのなかにあるささいな動きに注意を払う。自分自身を丁寧にと言ってしまうと、昨今の商業コピーみたいで、かえって人目を気にしたうえでかざっているみたいだが、誰かに強いられず、自然と”そう”するから育まれる所作は、その人の暮らしの独創性を醸し出していそう。

とりわけおもしろかったのは、75歳潮田澄久子さん(写真家)と67歳島尾伸三さん(写真家、作家)のご夫婦。「ぜいたくをしなくても、ふたりでいれば、毎日は楽しい」が表題。リビングでおしゃべりするお二人の写真が「暮らし」を写し取っていた。

潮田さんの笑顔から声まで聞こえてきそうだ。上の歯をニカっとみせた満面の笑みへやわらかい目差しをおくる島尾さんの横顔がおだやかに見えた。やさしい目だなあ。この一枚を撮影した方も、お二人のように過ごしていなければ撮れないんじゃないだろうか。38年の時間を表した一枚。

この写真のキャプションが、”リビングでおしゃべりするふたり。島尾さんが家中で一番落ち着く場所は「澄久子さんのそば」。”とあり、こちらがかわりに赤面したくなるすがすがしいお言葉。

家族だからこそ、何を言っていいわけではない。遠慮も、気を使うことも必要です。干渉しないのも、互いに気持ちよく暮らすコツです。P.116

38年のうちにもうけられた暗黙のルールは、ほどよい距離を保っていそう。価値観が変わり、変わったから分かること。娘さんはコラムニストとして活躍していらっしゃるとの由。結婚当初の7年間、台所、トイレは共同、風呂はなしの一部屋で親子3人の生活。

大変なことや将来への漠とした不安もあるけれど、しゃかりきにならなくても楽しく暮らしてこれた。お金がなくても、ぜいたくをしなければ生活はどんなふうにも楽しめるとわかりました。いまは多少暮らし向きが変わったけれど、あのころと気持ちは全然変わっていません。また何かあって小さな部屋に戻るのもいいねと島尾と話しています。わたしの生きるうえでの基本、原点のすべてがあの西洋館にあります」 P.119

信頼は家族の土台。潮田さんの「暮らしのヒント」から感じた。信頼の裏返しから成り立っているお二人の日常の行動にユニークを感じたり、娘さんへの接し方にうなづいたり。お金がないことを子供さんに正直に話され、それが自立を促したと思う、とおっしゃられるのを目にして、もしも自分に子供がいたら、そんなふうに向き合えただろうかなんて無意味な「もし」が浮かんだ。無意味な「もし」は無駄に浮かぶ。

暮らしのヒント集と自分の境遇を比べることはないにしても想像してみたくなる。その想像は自分の暮らしに変化をもたらしてくれるかな。

ところで暮らしのヒント集のコンセプトはなんだろう。この別冊の取材そのものがまるで暮らしのよう。一枚一枚の写真が丁寧に撮影され、何度もインタビューして長い時間をかけて書かれた文章に感じた。とても手間をかけて編集されてそうで、作り手の暮らしが一冊の形になって表れているみたいだった。