琵琶湖
diary

向こう側の景色

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お昼ごはんを食べて公園を散策していたら若いご夫婦とすれちがった。20代とお見受けしたがわからない。奥様が生後数ヶ月(当てずっぽう)の赤ちゃんを抱っこしておられて、赤ちゃんへしきりに話しかけていらっしゃる。一瞥を投げただけでも伝わってくるよろこび。世界の争いは明日にでもなくなるかと思えるような笑顔。

最高の幸せが、緑と光と影に祝福されて歩いていた。からりと晴れた陽射しは油断していたら半袖の腕を赤く染めそうなのに、お母さんは意に介せず笑って赤ちゃんへ話しかけていた。よころびがつまりすぎて幸せの風船をはじけさせてしまったかのよう。

見たことのない「向こう側」の景色。夫婦二人の家族から三人になったとき、小さな空間は名実ともに家族になるんだろうな。

川上未映子さんが番組で「孤独の最小単位は二人」とおっしゃったとき、子供を授かったので、これからは夫婦二人あるいは独身の心情を体感できない、というようなお話を口にされていた。研究なさっていた哲学者の多くは独身者であるから、もうその立場で著作を読めないとも。

「向こう側」の景色を想像してみる。歳を重ねるにつれ、しきりに想像するようになった。けれどもなかなか想像できなかった。若いご夫婦のご様子を目にして、フィルム映画を鑑賞しているようだった。赤ちゃんに話しかける「一瞬」のフィルムを切り取って、そこに別の二人の一枚をつなぎ合わせて、再び再生ボタンを押した。

毎日が生まれてはじめてで、毎日がぶっつけ本番で、お風呂にいれて、昼夜離れられず、寝返りの瞬間を見られたら奇跡、はじめて発音した単語に笑顔が絶えなく、ときおり疲れたとしても、新しい命は家族の中心であり心の支えになる。

時間は家族の礎。時間を分かち合う、時間を譲る、時間を与える。「自分だけの時間」の円はどんどん小さく、「家族の時間」の円の中にすっぽり含まれる。

2013年度におけるアメリカの世帯で子どものいる夫婦はたったの19%。私を含むその他の81%は、大切な存在と婚姻関係にないというのが現状なのだ
私の代わりに電話に出てくれる友人、セラピストのように悩みを聞いてくれるバリスタ、何も言わなくても気持ちを察してくれる美容師、寂しい思いをしているときに誘ってくれた同僚。彼らのほうが、本当の家族のように感じることがある。彼らは私に割り当てられたのではなく、私が選んだ人たちだ。宿命と遺伝子の合流点である血縁の家族よりも、私自身が選択した家族のほうが価値があると思う。選択した家族は人生が進むにつれてどんどん大所帯になっていく。『KINFOLK JAPAN EDITION VOLUME 10』 P.22

生活のなかに登場してくれる人たち。「一緒に暮らしているとか、どのくらいお互いをよく知っているかということ」ではない、「どのくらいお互いを思いやれるかという」ことが礎である家族。出会って、結婚して、子供を授かって暮らす家族とは異なる形の家族。

どちらの家族にも残される思い出。思い出を語り合える。映像と感情と時間が組み合わさっている。写真はソフトウェアで加工すれば、登場人物を入れ替えられる。思い出に現れる人(たち)は他の人物に替えられない。かけがえのない息づく家族の証なのだ。

思い出は家族の円をどんどん大きくする。円のなかに無数の思い出があり、思い出せない思い出があり、それぞれが覚えている出来事をパズルのピースのようにつないで一枚の思い出を語り合う。すばらしいと思う。

思い出は、私たちのアイデンティティを形成する上で最も重要な要素のひとつである。一生を通じて、私たちは去りゆく瞬間の断片を集め、様々な経験を重ねながら絶え間なく人生という歴史を築いている。思い出とは、私たちが何者であるのか、そしてどのような経験をしてきたのかを再確認させてくれるものなのだ。つまり、私たちにとって大切な、頭の中で生きる命ある存在が思い出なのである。『KINFOLK JAPAN EDITION VOLUME 10』 P.64

語り合いの機会は、語り合いたくなるまで訪れない。きっかけはわからない。機会は小さな蕾のまま佇み、毎日の感情が養分になって知らずに育っている。ある日、とつぜん花がひらき、それを見て人は変わったと感じる。思い出の登場人物が近くにいる間、人は素直に語り合えない。機会はずっと後かもしれない。

機会がなかなか訪れなくても、たくさんの思い出を家族の円のなかにしきつめてすごしてきた時間、それ自体、時間が「私たちが何者であるのか」を確かめさせてくれる。

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