「お願いだから凝視しないで!」ってパートナーの怒気をふくんだ声とともに、肘で小突かれる。どうも悪い癖らしい。あんまり自分では意識したことナイけど、僕はいたるところでヒトをみつめているらしい。移動中・食事中・遊び中…..etc。
随分前になるが、パートナーと二人で電車の車内で発車待ちしていたところ、いきなり外から猛ダッシュで駆け込んできて僕の目の前で立ち止まった。僕とその人が1mほどの間合いで向かい合うように立っている。
もう僕はそのヒトに虜。向かい合うこと2,3分後、いきなりそのヒトが
「なーるほど・ザ・ワールド」って発声した。続けざまに、「巨泉のクイズダービー!」ときた。
どうやら、世代的視聴番組は共感できそうだ。クイズ番組がよいらしい。っと思った矢先に、
「ガッツ石松に三千点!」と、力強く言い切った。
もうダメだ、僕の中で何かが壊れた。堰を切ったように、心の中で閉じこめていたコトバがパートナーにむかって溢れ出した。
「なんで、はらたいらやないんやろう?三択の女王竹下景子でもないで。どうも、最終問題やないかもしれんな」
って、パートナーに言ったら、スゴイ形相でおこられた。で、パートナーが、
「わからへんやろ!最終問題でガッツ石松の倍率に一発逆転ねらったかもしれんし」
って、至極もっともな激しいツッコミがはいった。
二人の毎日はこんな調子。この間も、京都駅地下の回転寿司屋で食事をしていたら、家族4人連れが僕らの隣に座った。カウンター横一列。向かって左から僕、パートナー、家族という順番。まず母親が、
「すみません、山芋うずら(軍艦)4つ」
と、いきなり板前さんに発注。なかなかさい先のよいスタートを切った。その時点で、僕の回転寿司への興味は急速に失せ、手がとまり、パートナーの話は、僕の左隣のヒトにしている状態。
その家族は、渡された”山芋うずら”をそれぞれがたいらげると、次に、父親がマグロを二皿とる。すると母親は、
「すみません、山芋うずら(軍艦)4つ」
心の琴線に触れた。目の前に本日のオススメのぶりが並べられようが、僕の大好物、ホッキ貝サラダを並べられようが、アウトオブ眼中。
再びたいらげて、今度は子供がタコに手をのばすと、母親がさっきと同じトーンで
「すみません、山芋うずら(軍艦)4つ」
断っておくが、ビデオテープを巻き戻しているのではないのであしからず。この3回目のコールまで、おおよそ10-15分ぐらいか。ここで、衝撃が走る。目の前の20代半ばであろう店員のこめかみに、青白い血液が脈々とウェーブ。
店員が返事をしない。それを不審に思った母親が念をおす。
「聞こえてます?」
店員の何かが壊れた。無言で山芋うずらをにぎると、なかば『ほりなげる』ようにわたす。(まぁ、やっちゃいけないこととはいえ、若気の至りか。それでも、やっちゃいけない。何があっても、プロとしてふるまわないと、と心の中で実況する)
その間、私の右足が、ガンガン、どなたかの左足によって蹴られている感触は少しまえからあった。でも、僕もその母親も我関せず状態、お互いがお互いのポジションへ戻る。
店員にはガマンの限度だったのだろう。30代後半の店員と立ち位置を上手に交代した。二死満塁のピンチ、30代後半の店員が抑えの切り札で投入された刹那、
「すみません、山芋うずら(軍艦)4つ」
のクリーンヒット。ガクッと膝から少し崩れかけたストッパー店員に、追い打ちをかけるように、
「すみません、山芋うずら(軍艦)4つ」
ノックアウト。抱腹絶倒。僕は、目をキラキラさせながら、「お肌スベスベ」って言ったら、左足のジャブがピタっと止まって、タイソン顔負けの左ショートフックがテンプルめがけてとんできた。
防戦一方の僕は、「だって”山芋うずら”、5回やで」ってささやいたら、「ジェットコースターを1日に5回乗る人は、誰?」と、撤退を余儀なくされるツッコミがはいる。
「わかったわ、ほいたらいのか?」と、勘定をすませようと、席をたち、狭い通路をレジへ向かう僕の背中越しに
「すみません、山芋うずら(軍艦)4つ」
と、低いハスキーボイスが店内に響いたことだけは、付け加えておこう。