[Review]: アメリカ最強のエリート教育

アメリカ 最強のエリート教育 (講談社+α新書)

『アメリカ 最強のエリート教育 (講談社+α新書)』 釣島 平三郎

米国で言う「キャリア」とはナンゾヤ?というくだらない質問がフト頭にうかび、アマゾンでゲット。アマゾンでの検索用語は「エリート」。なるほど、米国の「エリート養成課程」を知るには手頃な書籍。アメリカ駐在約17年の筆者の目からとおした米国のエリート教育やいかに!?

以下、つらつら拙劣な文章が続くので、先におおざっぱな感想を。

多としたいところ
米国の教育機関や教育システムの詳細を紹介した情報本。特に子息子女をこれから留学させたいとか、米国でキャリアアップしたいという中・高校生にはガイド本としてオススメ。また単純に米国の教育機関を知りたい大人にもオススメ。
期待して損するところ
教育についての筆者独自の提言は皆無。主張はあるが、すべてステレオタイプ。筆者が「米国では○○だが、日本の教育は~」と宣いはじめると、失笑できるあたりが香ばしい。

米国といえば、「自由競争」「能力主義」というマクロ的イメージがあるけど、ミクロ的には、実際どうよ?って思っていたら、ヤッパリねぇ。

「主要100社の従業員の平均給与は年間で約800万円、役員報酬はその4倍。米国有力企業の経営トップの報酬は平均で9億円とされている」
日本経済新聞, 2004年3月期の日米上場企業の役員年間報酬

一般労働者と大企業の社長との給与格差は、日本の場合で20倍程度、米国は200倍以上になるとのこと。

で、ビル・ゲイツ氏やマイケル・デル氏のようにアメリカンドリームを実現してエリートになる場合も確かにあるが、エリート中のエリートはそうでもないらしい。

米国の収入格差は、人生のかなり早い段階で決まっちゃう。じゃ、その早い段階ってのはどの程度?となると、次のコースで卒業した時点。

  1. 名門の家柄であること。もしくは裕福な家庭であること
  2. 中高一貫のボーディング・スクールへ入学し
  3. アイビーリーグ(東部の私立8大学)を卒業する
  4. 仕上げに、トップクラスの専門職大学院を卒業する

これらが、決まっちゃうに必要な条件らしい。

さてそれでは、上のコースを歩もうと思えば、ボーディング・スクールを例にとると、年間授業料は2-3万ドル以上かかる。推して知るべし。スゲエなぁ。この時点すでに、「それとなく拒絶する壁」をうまく設けてあるのが小気味よい。

一方、米国の公立はというと、中学・高校は学区制で居住地域で決まる。学校運営の財源は固定資産税なもんで、富裕層と貧困層では教育の質が違う。まぁ、貧困層の学区は、犯罪やドラッグが日常的とのこと。

是非はともかく、「へぇ~」と感じ入ったのは、エリートコースを歩んだグループと、公立コースを歩んだグループは、例外はあっても、出世競争で相まみえることはないらしい。米国のエリートコース卒業生はスタートラインが違う。

まぁ、日本の大企業では、「ビルから石を投げれば、学士にあたる」と言われた人々が、おおむね50代ぐらいまでに係長から課長にはなれる。そこから先は、まさに阿鼻叫喚の社内政治が繰り広げられるのでしょうな。

日本で米国のケースがうかぶといえば、東大法学部を卒業して、20代後半で地方税務署の署長になって、その土地の企業と「あ・うん」の呼吸で税務調査をやって、出来レースで点数をかせぎ、国税庁へ無事帰還して長官をめざすような感じ!?

激しく脱線した。ようは、富裕層による「所得の再分配」ならぬ「教育の再分配」機能が隠然と存在するという事実。このへんのテーマは明日のエントリーでふれてみようっと。

この米国のエリート教育が良いのか悪いのかわからないが、私的に食いついた点が二つ。

  1. 「何を教えているか」
  2. 「キャリアパス」

1.はRemember Who You Areのエントリーでもふれたけど、「社会のリーダーであり、エグゼクティブになることが約束されている」前提の教育。教育と言うよりも「訓練」という感じもしないではない。だって、あんまり頭よくなくても、イエール大学を卒業して43代大統領になれるしねぇ。

この著書でも散見するが、「リーダーシップ」を中心に「ボランティア」「規律」「社会貢献」「国際社会と米国」などのテーマを高校・大学で問題提起される。そして、それを解決していくための能力(論理的思考と表現方法)を身につけていく。同時に、「エリートたる責任感」を学ぶ。

2.は、キャリア志向が強いエリートほど、大学卒業で終了じゃないっつう思考。むしろ、新卒後に社会経験を経て自分の方向が見えてきた時点で、専門職業大学院へ進学するのが当然な感じ。ただ、進学の目的が表は”学問”、裏が”投資”というあたり、快なる哉。だって、卒業後の年収も雲泥の差。だから2つぐらい卒業する人もいるらしい。

なもんで、何年で投資を回収できるかなどの”リターン”も考えながら教育ローンを組んだりする。このあたりのエクイティファイナンス的思考がステキ。

さらに、大学院のスキームが社会人を容易に受け入れられるようになっている。サテライト教室や授業時間、教育ローンなど、かなり魅力的な印象。私も大学院進学の資金を目下プール中なので、特にこのあたりはうらやましく思った。

あとは、おおむね教育機関の紹介に終始。「へぇー」って思うようなことも結構書いてある。例えば、ニューヨーク州立大学の話。

学生が40万3000人で、州内の13の町にキャンパスがあって、2年制大学のコミュニティー・カレッジやテクニカル・カレッジを入れると64のキャンパスになる。総長が各キャンパスの学長を統括している。

なんつー規模の大学って絶句。スケールが違うわーな。こんな感じで、大学の運営や経営、教育委員会、奨学金の話なんかが続く。

だけども、この筆者の米国エリート教育万歳、日本の均一教育はもう古いの連呼は、正直辟易した。そのまっただ中で育ったお宅はどうよってツッコミをいれたくなる。そんな、ツッコミを警戒してか、言い過ぎた場合は、やんわりと時代がそうだったとフォローをいれてるあたりが一知半解だね。

中途半端にもならない日米教育比較論を挿入するよりも、純粋に紹介に徹する情報書籍として出版したほうが読者的受けがよいのではないかと、余計なお世話をノーガキってみておしまい。