[Review]: 世間のウソ

世間のウソ (新潮新書)

『世間のウソ (新潮新書)』 日垣 隆

冒頭、「ウソには五種類ある」と定義。第一は社交辞令のウソ。第二は皮肉というジャンル。第三はその場の雰囲気が作り出すウソ。第四は特定の組織または誰かを守るため、あるいは飾るためのウソ。第五が世論を誤らせる構造的なウソ。

第五の構造的ウソについてとりあげる。騙されないための処方箋、正しく見極めるには?

  • 第一章 リスクをめぐるウソ
  • 第二章 事件をめぐるウソ
  • 第三章 子どもをめぐるウソ
  • 第四章 値段をめぐるウソ
  • 第五章 制度をめぐるウソ

第一章の「リスクをめぐるウソ」のなかの第一話、「宝くじのウソ」。2004年の年末ジャンボ宝くじは、98年以前の宝くじと比べ、1等当選確率は4分の1に下がっている。からくりは、1等の当選確率を下げることで、2等の確率を上げ、さらに1万円当選をばらまいている。

“当たりやすい店や売り場”も、俗説・妄信。あくまでお店の販売枚数が多かっただけ。確率でとらえると、「宝くじを買いに外へ出かけて、車に轢かれる可能性のほうが高い」

日本の公営ギャンブルの管轄は各省庁にふりわけられている。胴元がとるテラ銭を外国と比較して数字で検証。

他、自殺報道のウソ、安全性のウソ、男女のウソ、人身売買のウソ、性善説のウソ、精神鑑定のウソ、児童虐待のウソ、部活のウソ、料金設定のウソ、絵画市場のウソ、オリンピックのウソ、裁判員のウソ、大国のウソ、他国支配のウソと、次々と「構造的ウソ」を暴いていく。

まぁ、まえがきでことわっているように、本書の効用は論理と確率統計に強くなるということと、後遺症として多少皮肉っぽくなるかもしれないと。

そうなんです。ウソのテーマからしてもわかるように、「論理」を構築する「論点」をどう設定しているかだけ。裏をかえせば、こちらも「反対の論点」を設定してやれば、反論・異論を提示することも可能。確率統計の数字を用いた検証は、ひっくりかえすのは容易じゃないかもしれないけど。

このへんの文章術とあわせた思考方法は、大人のための文章法(和田秀樹 角川書店)がくわしい。ありていにいえば、「世の中の意見の逆をまず考えよ」といったところですかね。

余談、精神鑑定のウソと裁判員のウソの2本は説得力があった。筆者の身内を襲った悲劇が、この分野に精通させたのかなぁって穿ったけど。なんというか、専門性を高める過程で得た知識を昇華して、判断できるようになった書き手の思考が、コトバで表現されると、脆弱さがなくなる感じ。

「そんな数字でわりきれんやろ」「そんなんおかしいわ」「こういうこと言うヤツ、ムカツク」といった感情的に主張する人には、ビミョーですね。ただ、筆者がとりあげているトピックスは、読んで知っておいても害はないよって感じで、オシマイ。