[Review]: 知識資本主義

知識資本主義

レスター・C・サローの邦訳最新作。『知識資本主義』 レスター・C・サロー, 三上 義一。アメリカを代表する経済学者で、MITの経営・経済学教授。社会の変容や予見に定評がある。本書もまた原題と乖離。「知識資本主義」とあるが、結論からのべると、それが登場するのは終わりの2章のみ。

大胆に要約してしまうと、「資本主義の構造と本質の問題を指摘。次の資本主義は、知識(知的所有権)によって再構築されるであろう」ってところか。ゴメンナサイ、解釈が間違っていたら(笑)。

現在の資本主義は、グローバリゼーションぬきに考えられない。本書は、資本主義の構造的問題点に着眼して、グローバリゼーションの実態を説いていく。圧巻というか秀逸なのは、「空論」ではなく実用主義を色濃く反映した言説。

  • 目次
  • 第1章 バベルの塔
  • 第2章 アメリカ・日本・ヨーロッパ
  • 第3章 資本主義の本質
  • 第4章 反グローバリゼーションの声
  • 第5章 真の脅威
  • 第6章 資本主義を建て直す
  • 第7章 CKO(最高知識責任者)
  • 第8章 知識資本主義――成功の条件
  • 訳者あとがき

グローバリゼーションに対抗する方策は、3つだけだとサロー教授は断言。

  1. 受け入れるか
  2. 拒否するか
  3. 積極的に参加し、マイナス面を排除したグローバル経済を構築するか

サロー教授は、3.を提唱。正体はいったい何なのか正確に理解できていないグローバリゼーションの本質を、アメリカ・日本・ヨーロッパの過去の事実を例証しながら、解き明かしていく。マクロなデータをもちいた展開を読むと、日本のGDPが世界経済の一翼をになっている現実をあらためて知らしめられる。

日本についての言及している箇所は辛辣そのもの。グローバル経済に対し、巨大なブレーキをかけた10年は、何が悪なのかを説明し、リーダーシップ、政策、スピードなどについて舌鋒鋭く批判。同時に何をすべきも明示。

一言でいうと、「責任者の厳罰」と「”債務にもとづく資本主義”から”自己資本にもとづく資本主義”への素早い移行」。

移行とは、つまり、Aという土地は、膨大な借金をかかえて運用している土地であろうと、無借金で運用している土地であろうと、変わりはない。それなら、前者には市場から撤退してもらい、後者に所有権を移し活力を与えるべき、だと。

資本主義の成功と不安定な理由を考えると、人間の三つの根本的態度に求めることができるという。すなわち、「欲、楽観、群集心理」。この三つがあるゆえに、資本主義は過去に繁栄と衰退を繰り返してきた。そして、過去をふり返ると、資本主義は、不平等であり社会格差を生む下地をもっていると理解と認識しなければならない。

資本主義を席巻するグローバリゼーションに批難の声があがるなか、サロー教授は反証し、真の脅威は一体何なのかにつなげていく。それが、「巨額の財政赤字を抱えたアメリカのドル暴落(ドルクラッシュ)と資本の流出」。そして、「デフレ」。

真の脅威に立ち向かいつつ、資本主義を立て直すにカギとなるのが、知的所有権。知的所有権は、知識集約型経済社会すなわち知識資本主義のコアになっている。知識や情報の獲得には、投資が必要。例えば、ソフトウェア、バイオテクノロジー、金融工学など。それらは、いずれも著作権や商権を保護し、脅かされてはいけない。

今日、資源は誰でも世界市場から安く調達でき、世界のどこからでも市場にアクセスできる。同様に、企業が競争に勝つ資本も借り入れられる。となると、残りの競争力は、「他が持たない技術、侵すことのできない著作権、または他者と差別化できるブランド名」になる。

最後に、サロー教授は、知識資本主義にそなえるためのCKO(Chief Knowledge Officer)という言葉を定義していく。企業では、CEOやCFOが兼務するのではない。あくまで、CKOという最高知識責任者を創設すべきだと。

その役割は、「新しいグローバル知識資本主義における短期・長期の戦略と戦術を計画立案し、そして指導する」。仕事の内容は、「テクノロジーと、それがいかに社会と経済とに関わっているかという正確な情報を提供すること」。

企業だけにとどまらず、国家も同様。国家CKOと知識省の創設を提案。そして、自国の文化に自信を持つことが、グローバリゼーションと知識資本主義で成功するために必要な正しい態度だと締めくくる。

最初にふれたけど、「構造と本質」を考察しているところに本書の妙味がある。下手な本を数冊読むより、この一冊を何度も読み返すほうが思考を鍛えられる。ただし、実用主義が色濃いと、僕が感じたように、著書の内容には反論もある。反論にも同様、「構造と本質」を考察した著書があるので、両眼で熟読すると、好奇心がますます刺激されるかな。