ファシリテーション入門

ファシリテーション入門コーチングとファシリテーションの違いがイマイチよくわからなくて、どうしようかと悩んでいたところ、大人のための読書法に、「高校生が読むような入門書がときにはよい」と書いてあったのをチラ見したので、とりあえず「入門」に飛びついてみた。結果は良好、テキストにまだまとめられないが、両者の違いをかみ分けられた。

ファシリテーション入門 堀 公俊(著) 日本経済新聞社

ファシリテーション(=facilitation)の接頭語にあたるfacilはラテン語でeasyを意味する。「容易にする」「円滑にする」「スムーズに運ばせる」というのが原意。日本語に一言集約すると、「集団による知的相互作用を促進する働き」。

かみくだけば、「中立な立場で、チームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大となるように支援する」のが、ファシリテーション。

ただし、ファシリテーションは単なる進行役ではなく、コミュニケーションの場をつくり、個々の関係性を重視し、参加している人たちから優れたコンセンサスを引き出していかなければならない。また、議論が対立したときは、連結ピンの役割を担い、問題解決を促進させ、合意の質を高めていく。

ファシリテーションがもたらす効果は、3つ。

  1. チームが成果に達するまでの時間を短縮できる
  2. メンバーの相乗効果が発揮できる
  3. メンバーの自律性を育み、個人を活性化できる

また、ファシリテーションは様々な分野に応用でき、6つの分野カテゴリーに分類される。

  1. 問題解決型(ビジネス・政治分野)
  2. 合意形成型(社会活動・学術分野)
  3. 教育研修型(ビジネス・社会教育・学校教育分野)
  4. 体験学習型(自然・環境分野)
  5. 自己表現型(アート・芸能分野)
  6. 自己変革型(ビジネス・生活分野)

それぞれ6つのカテゴリーは、

  • 縦軸が、創造的(意志決定・合意形成・価値創造)と学習的(啓発・理解・体感)
  • 横軸が、社会的(組織・集団)と個人的

のマトリックスにはめこむと、それぞれのファシリテーションが発揮する効果がわかりやすい。たとえば、1.の問題解決型ファシリテーションは、縦軸の創造的と横軸の社会的に分類される。本書では、問題解決型ファシリテーションに焦点をあて、その役割を担う人であるファシリテーター(=協働促進者,共創支援者)に必要なスキルを解説する。

そのスキルとは何か?ファシリテーターには4つのスキルが求められる。

  1. 場のデザインのスキル
  2. 対人関係のスキル
  3. 構造化のスキル
  4. 合意形成のスキル

この4つのスキルが、それぞれの活動ステージに応じて、重要度合いが変化していく。何を目的に誰を集め、どのようなやり方で議論するかデザインし、メンバーの相互関係の言語・非言語メッセージを解読する。そして、議論の全体像を構造化していき、論点を絞りながら創造的コンセンサスを最大限に得られるようにまとめていく。

では、4つのスキルの具体的な内容は何か?それが、本書の後半部分で述べられていく。

読了の感想はというと、「ファシリテーションを企業で活用するときの理想と現実」を垣間見たってところか。

本書によると、近年、ファシリテーションはNPOやボランタリーな組織のなかでは浸透しているが、企業では市民権を得ていないらしい。

ビジネスマンなら本書で求められるファシリテーターの技術を体得できると、さまざなビジネスシーンで応用できるはず。たとえば、スキルの2や3を実践できれば、営業やコンサルテーションの成果が向上すると思う。

にもかかわらず、企業で市民権を得ていないのは、なぜだろうかと考えさせられた。

ここで、先の総選挙の小泉首相に対する評価を振り返った。百家争鳴ではあるが、資質という要素で収斂すると、「リーダーシップ」か「独裁者」と評せられている。なかでも、ベンチャー企業の経営者は、前者と捉える意見が多いように思う。

このリーダーシップについては、本書でも冒頭に取り上げられていて、「"従来型"リーダーシップとは何か」という趣旨で説明され、結論としてその限界を指摘している。

しかし、はたしてそうだろうか?

暴論になるが、企業は、千差万別の人材で構成され、すべての社員が適切な能力、というよりもひらたくえば、「やる気」をもって企業活動に参画しているとは限らない。また、場合によっては、「ついていく」という社員もいるかもしれない。

それらを含めてマネジメントする企業組織の管理者は、本書でいう従来型リーダーシップに固執せざるをえない側面もあるし、また、そちらの方が成果をあげる場合もある。

ただし、個々の人材が育ってこないではないかという反論がある。とりわけ、この反論の理論的支柱が、ファシリテーションかもしれないと思った。おそらく、僕自身の立ち位置が、経営者としての読み手だったために、そう感じたんじゃないかな。

結局、足して二で割る的な結論になるけど、バランス感覚じゃないかと。ファシリテーターのスキルを身につけるのはとても大切だ。ただし、そのスキルを、時にファシリテーション、時にリーダーシップとして、それぞれのビジネスシーンで有効に使い分けるバランス感覚と判断力かな、っていう愚考で打ち止め。