[Review]: ヤコブ・ニールセンのAlertbox -そのデザイン、間違ってます-

Jakob Nilsen博士のAlertbox のうち1995年から2006年4月までに発表された300以上のコラムの中から、ユーザビリティの改善に役立つ50のコラムを厳選し、まとめている。わたしはNilesen博士を信仰までしないけど、ユーザビリティの核として博士の言説を活用させていただいている。本書は、デザイナー以外にも企業のホームページ担当者が一読しても勉強になると思う。また書いてある内容を一般化するぐらい読み込めば日々のタスクでも使える。一般化には認知心理学的な要素が含まれる。それについては 『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』 ドナルド・A. ノーマン が詳しい。

ウェブサイトのデザインでは、きれいな画像や人目を引くFlashをどう活用するかなど、表面的な問題が先行しがちである。しかし、見目麗しいウェブページであっても使いやすいものでなければ、ユーザは容易にサイトから離れてしまう。ウェブのデザインでは、ウェブがいかに使いやすいか、すなわち「ユーザビリティ」が考えられているかどうかがユーザを集めるための重要なポイントとなる。ユーザビリティ分野の第一人者であるヤコブ・ニールセン博士は、1995年以降、ユーザビリティに関するさまざまな話題についてコラムを発表してきた。ニールセン博士の運営するサイトで人気連載中のこのコラムが「Alertbox」だ。

『ヤコブ・ニールセンのAlertbox -そのデザイン、間違ってます- (RD Books)』 Jakob Nielsen

数々の印象に残ったコラムのなかから、「あっ」とうなづいたポイントを紹介。博士はウェブサイトにおいて「デザイン標準」を確立すべきだと訴える。そのデザイン標準とは何かについては本書でもふれられているが割愛。とにかくなぜウェブサイトのデザイン標準が必要か。標準化は次のことを約束する。

  • どのような機能があるのかを予測できる。
  • その機能がインターフェイスの中でどのように表示されているのかを予想できる。
  • その機能がサイト内またはページ内のどこにあるのかを予想できる。
  • 目的を果たすために、各機能をどのように操作すればよいのかを予想できる。
  • 初めて見るデザインの要素の意味について、考え込む必要がない。
  • 非標準的なデザイン要素を見逃して、重要な機能を使い損なうことはない。
  • 期待どおりに機能しなかったときに、不愉快な思いをしなくて済む。

デザインを作成するうえで、「予想」を想定するのは必須だと思う。例えばJRの新快速(関西)に乗っているとき、トイレを利用する方が数十秒からまれに30秒ぐらいとまどっている光景に何度もでくわす。どうもJRのトイレの扉の開け方がわかりにくいらしい。車いすの方の利用を想定しているので、扉の開閉ボタンの位置がいくぶん低い。だからまずそれを探すのに数十秒かかる人が多い。次に、縦に配置されている二つのボタンのうち、上下どちらが「開閉」なのか瞬間的に見分けにくい。さらにトイレに入ると、自動で扉が閉まると思っている人もいるらしく、トイレの中にある開閉ボタンを押さないため、ずっと扉が開いたままのときがある。トイレの中で数秒〜十秒程度とまどっている人もいる。

「予想」というのはスピーチでも問われる。誰かが話をしているとき、聴衆は次の展開を考えながら聴く。その際、話し手は良い意味で予想を裏切れば、「おっ、この人は切れるな」とか「今までの人と違うな」という印象を与える。しかし、悪い意味に舵を切ってしまうと、「何を言っているのかさっぱり分からない」と酷評されるかもしれない。

あえてデザインとは違うことを書いてみた。もちろんウェブサイトでもユーザーは「過去の経験にもとづいて」予想しながらサイトにアクセスしてくる。画像があればマウスをかざしてみたり、色が違うテキストがリンクかと思ってみたり、その様態はさまざまだ。

すべての人に合致するユーザービリティを実現するのは難しいと思う。しかし、作り手である私にとって、「デザインもさることながら優先すべきは何か」を常に忘れずに、「自分ならこういう操作をする」という先入観を捨ててデザインすることをあらためて認識させてくれた。