[Review]: ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない)

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)

ぜひ小学生に必読をお願いしたくなる一冊(といったらマズイかな?!)、高校生が冬休みに新書でも読んでみるかとひらめいたらいの一番に手にとることをオススメ。「米国西海岸のキャリア変動」がもし日本にやってきたらを脳内シミュレーションできる。

実際、第二言語として話す人も入れると、世界の一〇人に一人、一〇億人以上が英語を話せる。加えて一〇億人が英語を勉強しており、二〇五〇年には世界の人口の二人に一人が相当レベルの英語を話すようになる、と予測されている。ヨーロッパ連合(EU)も、ほとんどの機関がフランス語圏にあるにもかかわらず、内部書類の7割が英語になっていまい、フランス人が嘆いているらしい。
こうして英語がデフォクト公用語になった結果、世界が英語を話せるようになり、「英語による英語のためのビジネス」ですら、海外に流れてしまったのである。

『ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)』 渡辺 千賀 P.26

「ブログを三つだけしか読んじゃいけないよ」って言われたらどうします(一つでないとところがワタクシ)?迷わず本書の著者、渡辺千賀氏の『On Off and Beyond』を皮切りに、内田樹先生の『内田樹の研究室』、弾さんの『404 Blog Not Found』をチョイス。

著者のブログは文体・着眼・思惟の三拍子が絶妙、かつ知性・諧謔・論理に彩られている。その筆者が「えー、12月8日に本を出します」を予告して以来、まだかまだかと待ちわびて発売日当時、近くの旭屋書店に疾走した。その日に読了。抱腹絶倒、驚愕、羨望…..と次々に溢れ出てくる感情を堪能。

少し回り道。今、文部科学省は「小学校における英語教育について」議論している。初等教育での英語の是非もさることながら、「英語が話せる日本人」に私は関心をもつ。国際人を育てようという目標のもと、今の小学生やこれから生まれてくる子供たちが英語を話せるようになったとき、「流出」がはじまらないか。その「流出」に対するバックアッププランを政府が持ち合わせているのかいささか首をかしげたくなる。ただし「流出」は「距離」ではない。「国際人」を育成すれば、「日本企業」で英語を話してくれて、日本の国際競争力が高まると主張しているような印象を受ける。そんなに単純?!

英語を話せる日本人が、「日本企業の風土にもまれ日本語だけで形成された日本の市場」に腰を据える理由はない。自分の判断ひとつでヒョイと(心理的)壁を乗り越えられる。その”ヒョイ”の先、シリコンバレーで起きている「働き方」の地殻変動が本書の醍醐味。シリコンバレーのキャリアにただただ瞠目。

従来、どこの国でも、国内の仕事は「政治」「距離」「言語」の三つで隔てられ守られてきた。そしてまず、東西冷戦時代が終わり、「政治」で隔てられた「行くことができない国」「働くことができない国」は著しく減った。さらに今、インターネットの普及で「距離」の壁が思い切り小さくなった。

『ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)』 渡辺 千賀 P.30

結果、「言葉」の堤防だけが残っている。日本語に比べ英語の堤防は低く、アメリカは多くの仕事を発展途上国に奪われた。アメリカからサポートセンターに電話すれば、インドにつながり英語で案内してくれる。

「決まり切った質問に決まり切った答えをする」といった機械的な仕事をアウトソーシングされたアメリカは、それならばとサポートセンターをバーチャル化して生産性を向上させた。「ありがちな質問とその答えをデータベース化し、ユーザーからの問いかけにさっと答えるソフトウェアプログラム」を開発した。本書に載っていたので、さっそく私もイケアのサイトにアクセスしてAnnaさんに質問してみた。

本書の紹介同様、「彼氏はいますか?」という質問に、Annaさんは「恋愛の話は面白いと思いますが、ここでお話することではないので、イケアの話に戻りましょう」と言われた(2006年12月現在)。もちろんちゃんとした質問には「目の前で会話しているような」スピードで的確な答えが返ってくる。これら生産性向上は同時に失業をもたらす(*2001年からの3年間で240万人分の職が失われた)。

“どこ”を現場にするかは残る。海を越えるのも現場なら、GeekでEnglishができれば日本が現場になりうる。ただし、相手は”国内市場”ではない。先日、視聴率がない視聴で戯れ言を述べた。あと数年もすれば、英語が話せるGeekな高校生たちがチームを組んでアニメを制作、そいでもってYouTubeにアップ。どうよアメリカ、みたいな営業をしているかもしれない。

ところで本書にはいくつかの読み方があって、筆者がおっしゃるところ以下。

  1. 異国の地で起こる変わった人たちのオトギバナシとして読む
  2. 日本での働き方・生き方の参考にする
  3. モノは試しでシリコンバレーで働いてみるための参考にする

ぜひ3.の人が増えてほしいとのこと。私はというと、ザンネン。学も歴もなく、地頭が悪すぎる私はいずれの読み方もできなかった。ただ、たったひとつだけ学べたこと、それは”努力”。

以上、まとめると、常に努力し続けないと人は捨て去られる場所。レイオフが常態化した中では、「継続的に努力し続ける」ことの重要性を否が応でも気づかされる。努力しないと、ひどい目にあうからだ。裏を返せば、これこそ、究極の「努力が報われる社会」。厳しいが、厳しいからこそ、ファイト一発、がんばることができるのである。

『ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)』 渡辺 千賀 P.89

犬も歩けばノーベル賞受賞者にあたるようなシリコンバレーで努力を続けろと筆者は言う。ならタレントのかけらも持ち合わせていない私がやらねばならないのは努力を越えた努力。今この場所が「報われる社会」かどうか、それは私にはコントロールできない。だからあーだこーだ抜かす前に努力する。ただね、「逆立ちしても解決できない問題」は自分の能力を超えている問題、つまり「自分は無能」と承知してますので、そのへんは早々と撤退。

自分よりもっと無能な人が来る可能性もあるが、少なくとも、自分がそこに残っている限り、無能な人(=自分)が居座ることになる。無能な自分が残るのは、自分もつらい、周りもつらい。良いことがない。

『ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)』 渡辺 千賀 P.168

転職経験者からしますと、コレを口にださずに円満退社できるかが”ヒューマン2.0″ではないでしょうか。

ああ、ほんとおもろかったなぁ。第二作を期待しております。


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