『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』 高野 登
リッツ・カールトンといえば、”これ”といわれるぐらい数々のメディアで紹介された伝説のエピソード。以下、引用。
アメリカ・フロリダ州にあるリッツ・カールトン・ネイプルズでの出来事です。ビーチ係が、砂浜に並んだビーチチェアを片づけていました。そこにひとりの男性のお客様がやってきて、こう告げました。
「今夜、この浜辺で恋人にプロボーズしたいんだ。できれば、ビーチチェアをひとつ残しておいてくれないか」
時間が来たら椅子を片づけるのが彼の仕事でしたが、そのスタッフは「喜んで」と言ってにっこりと笑い、ビーチチェアをひとつだけ残しておきました。ここまでは、少し気のきいたホテルマンならば誰でもできることです。
ところが、そのスタッフは違いました。彼は椅子のほかにビーチテーブルもひとつ残しておいたのです。そしてテーブルの上に真っ白なテーブルクロスを敷き、お花とシャンパンを飾りました。またプロポーズの際に男性の膝が砂で汚れないように、椅子の前にタオルを畳んで敷いたのです。
さらに彼はレストランの従業員に頼んでタキシードを借り、Tシャツに短パンといういつものユニフォームから手早く着替えました。手には白いクロスをかけ、準備を整えてカップルが来るのを待っていました。
お客様が言葉にされた要望は、ビーチチェアをひとつ残しておくことだけだったにもかかわらず、です。
数年前、このエピソードを日本テレビ系の番組で知ったとき一瞬首をかしげた。
- なぜ、このスタッフはこの振る舞いができるのだろう?
- なぜ、リッツ・カールトンはスタッフをここまで教育できるのだろう?
- なぜ、このエピソードがリッツ・カールトンの伝説として「表」にでてきたのだろう?
リッツ・カールトンでは、伝説のエピソードを「ワオ・ストーリー」とよんでいる。ワオ・ストーリーの源泉は本書に凝縮されている。
- 「ノー」といわない姿勢で対応する
- チームワークの良さが最高のサービスをつくる
- リッツ・カールトンを支える7つの仕事の基本
- サービスで重要なことは高く感性を共有すること
- 従業員が一日二千ドルの決裁権を持つ意味
- 「ファーストクラス・カード」でお互いを称えあう
- 技術は訓練できてもパーソナリティは教育できない
- 毎日の「ラインナップ」(朝礼)が社員を育てる
- サービスは「ジャムセッション」の精神から生まれる
あたりまえのこと。なのにむずかしい。感動を生みだすサービスはハードウェアにあらず。人財だと痛感。
リッツ・カールトンの従業員は、クレド(信条)と呼ばれるカード(46ページ)を肌身離さず持っています。クレドはゴールド・スタンダードとも呼ばれ、経営理念や哲学がすべて凝縮されています。リッツ・カールトンにおいてホスピタリティの実現、つまりサービスを超える瞬間は、クレドの精神を全従業員が共有して初めて成し得るものなのです。『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』 P.4
クレドに興味があれば本書を手にとってみてください。現場を経験した著者の言葉が肌にしみわたります。
クレドがリッツ・カールトンの源泉。クレドの共有と実践、そしてスタッフがいかにクレドを自分のものにするか。それが書かれている。クレドは(一般的な)社訓とは違う。額に入れて飾ってあったり、特別な日しか読み上げないようなものではない。
クレドを自分の「外」へおくのではなく、「内」にとけこませ昇華する。そして、「お客様自身が気づかれていない望みは何か」と「それに対してできる最高のおもてなしは何か」を常に考え、思い、感じ、「答え」を行動にうつしたとき、「サービスを超える瞬間」が生まれる。
- なぜ、クレドを共有できるのか?
- クレドを共有するスタッフには、何が必要か?
- 精神論と一線を画する「おもてなし」とは何か?
たくさんの問いが生まれ、ひとつひとつ答えてくれる。一方、次の言葉がふたたびうかぶ。「百聞は一見にしかず、百見は一行にしかず」
関連エントリー