[Review]: なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?

なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?

膳所のスターバックスにへ足繁く通う。古びた趣のある少し堅い木の椅子に腰かけテーブルにはPowerBookG4MacBook Proを広げてカリカリとHTMLのコードを書く。時には本を読んだり。タンブラーにそそがれたカフェモカやキャラメルマキアートを流し込みながら。この瞬間が大好きだ。「どうしてそんなに高いコーヒーを飲むの?」と尋ねられたら「わからない」と即答。わからないよそんなの。「空間、調度品、色彩、音楽、喧噪」が自分の好みにマッチしてエスプレッソがあるだけ。しいて苦言を呈するならバリスタによって味がほんの少し変わるぐらい。それがスターバックスだと思う。

「なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?」

この質問へ筆者のスコット・ベドベリ(米スターバックスコーヒーの元マーケティング担当副社長)は次の答えを用意した。「ブランド」。

ブランドは、上手な戦略、下手な戦略、合格点以下の戦略、問題外の戦略の総和である。ブランドは、最高の商品によって定義されると同時に、最低の商品によっても定義される。秀逸な広告によって定義されると同時に、何かの間違いで企画が通り当然のように忘却のかなたへ沈んでいった最悪の広告によっても定義される。最も優秀なスター社員の業績によって定義されると同時に、裁定の社員がしでかした失敗によっても定義される。[…]ブランドは、内容を、イメージを、あるいは一瞬の感情を吸い取るスポンジのようなものだ。それは人々の記憶に焼きついた心理的概念となり、そのまま永久に残るかもしれない。ブランドを完全にコントロールするこはできない。せいぜい、方向づけたり影響をおよぼしたりすることができるだけだ。

『なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?』 スコット・ベドベリー P.40-41

一言集約できる本はめずらしい。こう記されている。

「人間は、生きてきたあいだの経験や行動で定義される。ブランドも、しかり」

これだけでは味気ない。さらに続く。マーケティングに大量の資金を投じてももはや不十分だと周りは気づき始めた。それでも「お金はふんだんにある。だったらナイキのようなCMをつくってよ」という経営者は少なくない。どんなに金をつぎこんでも愛情や信頼は買えない。愛情や信頼は時間をかけた行動から獲得していくものなのに。

要諦はコレだけ。それじゃぁ著作物の体をなさない。だったらというわけで数々の事例を紹介。スターバックスをはじめ、元の職場であったナイキ、そしてマーケティング関連本に度々顔をだすハーレーダビッドソン、BMW、アップル、IBM、ディズニー、コカコーラーなどなど。正確には事例じゃないけど。それらはみなブランドを構築してきた「ストーリー」だ。だったらストーリーを真似てみては? 浅慮というもの。ブランド構築に「特効薬」はない。自らストーリーを創造する企業が「ブランド」を手にできる。

金言がそこら中にころがっている。1ページに1つはあるといってもいいほど。

—商品は顧客が経験を得るための単なるモノにすぎない—

—外の世界に対してブランドの精神をアピールしつづけることは重要であるが、さらに重要なのは、まず内に対してブランド精神を表明し、機会あるごとにその努力を続けていくことである。—

—バーガー・ショップは客の腹を満たす。いいコーヒーハウスは魂を満たす—

—ブランドは、コーヒー豆と同じく、周囲からの影響を敏感に吸収してしまう。良いことも、悪いことも。—

—優れたブランドは商品やサービスを超越して消費者と個人的かつ情緒的なレベルで共鳴できる特質を備えていなければならない。—

最後のテキストは言葉がかわれど度々登場したり。企業を動かす人々が「企業の人間性」を反映し、それらの一挙一動が「ブランド」へつながる。

なのに「ブランド」につながらいと悶えるのはなぜ? それが問題。

企業を動かす人々に自社のブランド精神をどう訴求するか

訴求したいなら、その前、「問い」が必要。「私の会社はいったい何だ」という問い。ブランドを構築している企業はいずれも「問い」を徹底的に探求している。社会に存在する意義、存在している理由。徹底的に問い続ける。これは社員にも言及できる。「私は何のために存在しているのか」と反転させてみたら?

冒頭の言葉へと回帰。

これを自問自答しなければならない時もあれば、積極的に外へ問いかけていくほうが得策な時もある。登場する企業は徹底的に「聴いている」。手法はグループインタビューが中心で、商品開発や市場調査の機会を有効に使い「顧客の声」に耳を傾けている。なかでも「中核を形成する顧客」の声に虚心坦懐でのぞむ。

個人事業主の私であっても「ブランド」に背を向けられない。とはいえ「ブランド」を構築するにはどうすればよいのかと四苦八苦する。そんな私に筆者は強いブランドを育てる八カ条を提示してくれた。

  1. ブランドのDNAを定義し保護する
  2. ブランドを賢く拡張して企業を育てる
  3. 顧客とのあいだに商品やサービスを超越した情緒的きずなを築く
  4. 時代を超えて価値の変わらぬものの擁護者となる
  5. 企業の大きさをマイナスでなくプラスに活かす
  6. 企業の超人的パワーを良い目的に役立てる
  7. 自社のブランド価値を組織全体に浸透させる
  8. ブランドの良き育ての親になる

実践するのは難しい。まだ先のものもあるし。ひとつひとつ着実にね。もっと手前をウロウロしているのが現実。それでも「ブランド」が企業の大小問わず、ひいては人にまで必要な資産なのは言わずもがな。