答えは10円ではない

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

『行動経済学 経済は「感情」で動いている』から出題。

ノートと鉛筆を買ったところ合計110円で、ノートが鉛筆より100円高かった。鉛筆はいくらかであるか5秒以内に答えよ。

もちろん答えは10円ではない。

私はとっさに「10円以下」と答えた>AHO。こんなトリビアル的設問の裏側には「理論」が含まれている。

人間の情報処理プロセスは、直感的部分と分析的部分の二つから形成されている。これは古代の哲学者によってすでに認識されていたが、最近「二重プロセス理論」と呼ばれる理論が登場した。

二重プロセスとは、人間が持っている二つの情報処理システムのことである。一つは、直感的、連想的、迅速、自動的、感情的、並列処理、労力がかからない等の特徴をもっているシステムであり、システム1と呼ばれ、もう一方は、分析的、統制的、直列処理、規則支配的、労力を要するといった特徴で表されるシステムであり、システム2と呼ばれる。システム1は一般的な広い対象に適用されるシステムであり、人間と動物の両方が持っている。システム2はシステム1よりずっと遅れて進化した人間固有のシステムであると考えられている。

『行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)』 友野 典男 P.94

冒頭の問題にもシステム1と2(*1)が関連している。システム2が1の間違いを検知できない、あるいは検知しても修正する時間がない。この他には、たとえば自動車を運転するとき、初心者はシステム2が常時作動する。その後、熟練するにつれ、運転操作はシステム1へ移行する。システム2は認知資源をより多く必要とする。

人が必ずしも合理的な行動を選択しないのはなぜだろうか?—–この疑問が頭によぎったので本書を手に取ってみた。”なぜ”の一部をほんの少しだけ理解できた。

「行動経済学」は心理学と経済学の復縁から生まれてきた研究分野であり、文字どおり「経済学」を扱っている。わたしは経済学に疎いので正直わからない記述が多かった。しかし、本書を手に取ったわたしの「行動」からすると、それらの記述はいまのところわたしに大きな影響を与えない。「「行動」を司る正体は何か?」という一点に関心が向いているので、副題の「感情」のほうに引き寄せられた。ここでの「感情」とは、心理学側からのアプローチである認知心理学を意味する。

人が「知覚」してから「行動」するまでのプロセスは、「こちら側」だけではなく、「あちら側」にも適用できると思う。近年、ブログをはじめとする情報が等比級数的に増加して、あちら側に置かれている。にもかからず、それを容易に探索できない事態に遭遇しないだろうか。そうなると、「知」の探索のために「検索」からはじまる。では、そもそも「検索」する人は何を知覚して言葉に変換して検索するのだろうか?

そして、目的の情報を獲得できたとき、何(あるいは何処)を認識して次の行動へとつなげるのか?さらにあちら側からこちら側にたぐり寄せるとき、こちら側の人とどういった交信をして判断するのか?

たとえば買いたい商品の情報を事前に情報収集して、いざ買い物へ向かうとき、売り場の人との会話や売り場の雰囲気の何を感じとり、次の行動へ移るのか。

そして、なによりも自分の持っていないフレームの問題を知覚したとき、つまり「フレーム問題」以前の問題に遭遇したとき、それからの行動は、何によって引きおこされるのか?

ディスプレイの向こう側にいる人たちの「行動」がどのようにわたしと交わっていくのか興味がつきない。

*1 本文中1はⅠ、2はⅡだがOSによって文字化けする可能性があるので、ここでは1と2で表記。