医学は科学ではない

木を見て森を見ずにならず、みずからのなかへ静かに耳を傾け、己で判断できる素材を収集し、専門家に問いかけ、その言葉を真摯に受けとめることなのだろうか。五里霧中のなか何を信じていいのかわからないとさじを投げるのはさけたい。

YOMIURI ONLINE: PET検診、がんの85%見落とし

国立がんセンター(東京)の内部調査で、画像検査PET(ペット、陽電子放射断層撮影)によるがん検診では85%のがんが見落とされていたことが分かった。 PET検診は「全身の小さながんが一度に発見できる、がん検診の切り札」と期待され、急速に広がっているが、効果に疑問符がついた形だ。

医学は科学ではない『医学は科学ではない』の著者、米山公啓先生によると、健康診断を受けた人が健康で長生きをすることを十分に証明する統計はないそうである。本書を読むと、なぜ医学は科学ではないかの理由や、人間ドッグが世界的にみても日本独自の健康診断方法であることがわかる。MRIと脳ドックの関係が象徴するように、高価な医療器具のランニング・コストを回収する仕組みを納得できる。先生方の事情も透けてくる。

PETについても言及している。

二〇〇三年四月末に臨床PET協議会が行ったPETがん検診のアンケート調査では、PETがん検診のアンケート調査検診陽性がんは〇.九%、PET検査陰性がんは〇.四%としている。PET陰性がんには腎臓や膀胱のがんが含まれ、臓器によっては発見しにくいことがわかっている。PET単独ではがんの三二%を見逃す危険があると指摘している。『医学は科学ではない』P.78


もちろんこの一冊をもってして、愚生が「医学は科学ではない」とわかったつもりになるのは短見である。もとより、「医学」そのものに対する歴史や倫理、技術をふくめた”すべて”をまったく知らないわけだから、短見になりようもない。

ただ、本書や本書に反論する文献と謙虚にむきあうのは、「処方された薬を飲まず、『このサプリメントは効きますか?』と先生に問う」ような患者にすくなくともなりたくないからだ。風邪は万病のもとは承知していても、風邪で内科にかけつけたくない。

かといって風邪だと”自己診断”できるわけがないから、せめて体内外で何がおきているのかといった変容を感じとるために、五感を働かせる努力を惜しまない。そのために、木を見て森を見ずにならぬよう己で愚考できる情報を収集したい。

愚見を重ねる。視点をかえると「何のために予防や健康に気をつかうのか?」という問いがうまれる(愚問を承知で)。身の程知らずと自分を罵りながら、「ああ、もう終わりか」とひょうひょうといられる様でありたい。長短かかわらず、パートナーに迷惑をかけずに後悔なき日をすごせればよろこばしい。それを目的として、自分がコントロールできる範囲で医療にかかわりたい。

人が周囲の環境とは関係なく閉じているというのは、熱力学的に考えれば、環境とは関係なく完全に独立していなければならず、それではエントロピーは永遠に増加して乱雑さが増し、人間であることを保てないはずであるから、常識的に考えてもありえないはずである。人間は酸素を取り入れ、呼吸をし、食事を食べ、エネルギーを作り出し、人間という形態を保ち続けている。それだけに周辺の社会や自然環境の影響を受けながら生きているはずである。病気になることは、文化人類学者の波平恵美子によれば、常に周囲へ影響を及ぼすことだという。家族は痛そうな顔をしている患者を心配し、それがストレスになるであろうから、病人をかかえる家族の精神にも十分に影響を与えるのだという。同P.141-142