機前

2010.10.13 晴れ

朝が肌寒く昼は七分袖だと額にほんのわずかな汗をうかべ夜は再び肌寒い。そんな日が続く。いまの時節は体調を崩しやすいのか。ラジオのリスナーは風邪をひいたという。僕は移動と接触が少ない。最後に風邪が発症したのを覚えていない。それはそれでありがたいことか不幸か判然としない。

午前中にO先生のイラストを仕上げてメール。昼すぎに電話をいただく。ダメだしだった。イラストをトレースして手書き感を出したところそれがダメだった。これからのウェブは手書きのイラストが受け入れられると僕は見立てているが、O先生はデジタルアートなイラストがよいとのこと。昨日と今日の午前中の仕事が全部無駄になった。しょうがない。自分のコミュニケーション能力の低さが招いた結果だ。

午後は明日のF先生のドクター会に備えて資料に目を通す。明日の内容をいくつかシミュレーション。フレームワークを制作するために必要なデータを収集しなければならない。診療コンセプトと診療パターンは選択できそうなのであとはメソッドを使って制約条件と境界条件を定めて思考したほうがアウトプットしやすいと考える。横軸と縦軸のマトリクスや分析シートのツール群を選ぶステップにさしかかっている。

Amazonが”Kindle Singes”を発表した。Kindle Singlesは文量が1万~3万語(約30ページから90ページ)程度のコンテンツで、雑誌の特集と一般的な書籍の中間に当たるボリュームを持ったコンテンツだ。発表のコメントによると英語圏では雑誌・書籍向けの原稿は1万語以下、あるいは5万語以上が多く、このボリュームは紙出版の影響を強く受けているとのこと。

ところがAmazonの分析?によると、アイデアを効果的に伝えるためには1万〜3万語で端的にまとめるほうが最適らしい。だから”Kindle Singles”が受け皿と。

分析? しているかどうか知らないけど 『その数学が戦略を決める』 を読めば、Amazonが大量データ解析をしていないと判定するほうに違和感を覚える。テラバイトのデータを解析して「どんな内容の本がどの分量ならどれぐらい売れるか」程度のデータを算出していると思う。

英語を伝達手段として使える日本人は日本を伝える書籍をAmazonから出版できる。Kindle Singlesのような中間ボリュームのプラットフォームが整備されれば、ブログやSNSで高い専門性のコンテンツを書いているならそちらへ移行する人も現れる。

『プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?』 によれば、生物学的証拠として現在の脳と四万年前の文字を持っていなかった人間の脳に、構造的な相違はほとんどないという認識だ(P.318)。ところが文字を持ち、書記体系を読む脳、読字する脳、端的に読書するようになった脳は、脳内の回路の接続方法を脳自身が再編成する。

勝手な解釈すればハードウエアの設計原理は変わっていないが、読字(読書)によって人間はソフトウエアの回路を再設計して最適化する。読字が脳のソフトウエアの進化をもたらす。認知プロセスと深く関わっている。読字によって読み手の知的発達と文化の発達を促してきた。

一方、著者メアリアン・ウルフ氏は懸念する。オンライン・リテラシーの進展が著しい現代の読字スタイルは、マルチタスクをこなして膨大な情報を統合して優先順位をつけなければならない。”より速く””より多く”の読字スタイルは脳にどのような進化をもたらすか未知の領域だ。文字を読む脳が今備えている一連の注意・推論・内省の能力の発達を阻害するかもしれない。

それでも思考プロセスの指数関数的加速は止められない。30〜90ページのボリュームコンテンツが登場する。ますます”より速く””より多く”へ。脳は回路の接続方法をどんなふうに再設計して最適化するんだ?