[Review]: 靖国問題

靖国問題 (ちくま新書)

小泉首相が8月15日に靖国神社を参拝するかどうか注目されている。ほぼ確定だとの見解が散見され、それを裏付けるかのように安倍晋三官房長官は8月下旬に総裁選出馬の表明をするだろうと定点観測されている。

対陣を張る谷垣禎一財務相は来週にも出馬表明するようだ(参照)。蠢動しはじめた矢先、日本経済新聞社が今朝の朝刊で靖国神社A級戦犯合祀問題(宮内庁長官メモ)をすっぱ抜いた(参照)。A級戦犯合祀と昭和天皇の参拝中止を関連づける見解に反対する論客の肝胆を寒からしめるかもしれない。

各社、東奔西走か(参照1,参照2,参照3,参照4)。野生が軽々に論じてはならないと自戒。わきおこる無学の野次馬根性。なぜ今の時期なのだろう。そして、もし象徴の判断が”利用”されたら政治の最高責任者はどうふるまうのだろう。『靖国問題 (ちくま新書)』 高橋 哲哉  をひっぱりだす。昨年上梓された本書は瞬く間にベストセラーに。同時に保守論壇から舌鋒するどく反論された。一家言をもつ識者たちの言説を読んでも言わずもがな私にはわからない。

日本では、中国は「A級戦犯」合祀を理由に日本の首相の靖国神社参拝を批判することによって、日本の戦争責任を徹底追求しているのだ、という印象が広まっている。しかし、私の見方は、ある意味で逆である。中国政府は、この問題を「A級戦犯」合祀に絞り込むことによって問題を限定し、一種の「政治決着」を図ろうとしているのである。「A級戦犯」合祀を問題にするということは、逆に言えば、それ以外は問題にしないということにほかならない。[…]「A級戦犯」以外を問題にしないということは、靖国神社そのものを問題にしているのでもない、ということである。いやそれどころか、中国政府は(韓国政府も)「A級戦犯」合祀自体を問題にしているのではない、とさえ言えるだろう。

『靖国問題 (ちくま新書)』 高橋 哲哉  P.70

今回のメモと「A級戦犯」合祀問題に限定した中国との思惑が一致して、分祀論にはずみがつき、万一分祀が実現したとしても高橋先生曰く「政府間の政治決着にとどまる」ことになる。そしてA級戦犯分祀は互いの歴史認識を深化させるどころか妨げになり、ひいては戦争責任問題を矮小化させてしまうと指摘する。

A級戦犯を排除した靖国神社に昭和天皇が参拝し、「英霊」たちを慰撫する。それは、A級戦犯に主要な戦争責任を集中させ、彼らをスケープゴート(犠牲の山羊)にすることで昭和天皇が免責され、圧倒的多数の一般国民も戦争責任を不問に付した東京裁判の構図に瓜二つなのである。

『靖国問題 (ちくま新書)』 高橋 哲哉  P.70

そうなのか。で、なにが問題なのか。無謀を承知で解釈する。「戦後責任を矮小化させてはならない」ということか。だから「A級戦犯」合祀問題も政府間の「政治決着」こそあれ、両国にとって政治決着をこえた「解決」をもたらさないとおっしゃているのか。

でも何も知らない私は「政治決着」に不時着してもいいぜって思ってしまう。「圧倒的多数の一般国民も戦争責任を不問に付した」というふうに自分を免責していない。(亀よりも遅い速度で)戦争に関連する資料を読み、どのような言動を自分に課せば「将来」に向かうのかと私なりに考えている。

歴史認識と歴史問題は双方いずれにも「事実」がある。真実の追究は不可能に近いと私は絶望している。だから「民間や学術の交流であーでもないこーでもないと議論するのはよいけど、もう政府ではごたごたするのはやめましょうね」なんて政府間の”政治決着”がせめてできるならやってみてよと愚考する。

「昭和天皇が免責され」という語句から勝手にかぎとってしまう「裁き」の香り。もし先生が”審判”を希求しておられる、そして(東京裁判では免責となった)一般国民へ「戦後責任」という罪の償いを科したいのであれば、一義的な「戦後責任」ではなく腹芸もありではないかと。

右、愚見。国は次の担い手のために「将来」へ向かってほしいと願う。だから腹芸もありで外交上手に妥協して、ときにはもの言うであってほしい。

もうここまで暴論を吐いてきたら、もっと言い散らかしてしまえと勢いづく。私的参拝についても蒙昧。だから妄想。「参拝がダメではなくて、徹底的に”私人”で参拝すれば。それができないなら、はなから行かなければ」と。諸外国や関係団体のがぶり四つを眺めると目が霞む。なので「違憲でない総理大臣の参拝ってどういうものだろう」って馬鹿っぽくクリアカットにしてみる。でもこれって「じゃぁ、法律を遵守してればなにをしでかしても」的論にハマる。わかるけど。そんな私の愚見も本書は論破してくれている。

そうやって愚考をひとつひとつ積み重ねていくしか私にはできませんが、靖国神社についてはそんなところ。一度参拝してみたいけど、パートナーが興味ないらしい。そんなわけで東京出張の口実をどうしようかと思案中。

無駄話:

むずかしい。「靖国だけが問題ではないから譲歩しても意味はない」という朝生好き某参議院議員の見解もうなづける。たしかにパンダをもらって嬉々としていた時代はノスタルジアになり、両国のパワーバランスは変貌している。競合しているから衝突もおきる。靖国問題は結果であって外交上の衝突の原因ではないかと。靖国問題と皇室ってつがいにしてほしくないですけどね。