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[Review]: ノードストローム・ウェイ 絶対にノーとは言わない百貨店

ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店 (日経ビジネス人文庫)

Amazonでは単行本を入手できない。『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店 (日経ビジネス人文庫)』 を紹介。内容は同じだと思う。私は単行本を読んだ(1997年1月22日第4版)。アマゾンのレビューには辛口の評価も。いずれのレビューもなるほど。ちょっとまって、「顧客第一主義のエピソード集」として読んでしまってないかな? たしかにエピソード満載だけど、すべてノードストロームが実践した結果(=方法)だ。真似しても顧客はよろこばない。「絶対にノーと言わない」理念があるから行動しただけ。もちろん「行動」自体が評価される。とはいえそもそもノードストロームは「行動しない人」を選択しない。企業はノードストロームがいう「顧客第一」にあたるものとして「何を」を背骨にするのか。「何を」と「選択すべき人」は本書には書かれていない。それが核心だと思う。「何を」が発見でき、「選択すべき人」に共有されたとき、方法が求められる。

従業員に責任と権限を与えることが、指導者側の根本姿勢です。ノードストロームでは、権限を与えるための環境づくりをしています。私たちは部下たちと一つのチームを組み、彼らの失敗も許します。しかし、まず何よりも明確なことは、私たちが彼らのニーズに応えるためにそこにいるということです。

『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』 P.46

1901年、小さな靴の専門店がシアトルに誕生した。ノードストロームの出発点。今ではアメリカ合衆国5大デパートに数えられる全米最大の高級デパートに成長した。ノードストローム一族で構成された同族企業でありニューヨーク証券取引所にも上場している。アウトスマート(計略で他を出し抜くこと)ではなくアウトサービス(サービスを超えたサービス)、それがノードストローム主義。

絶対にノーとは言わない百貨店には3つの特徴がある。

  1. 逆ピラミッド型の組織
  2. 純売り上げに基づくコミッション制の給与体系
  3. 無条件の返品制度

3つが土台となって「顧客第一主義」を支えている。顧客に誠心誠意尽くすこと、この一点のみがノードストロームを存続させる。それを実践できるのは売り場の販売員たち。このロジックから導き出された結果、逆ピラミッド型組織が編成された。顧客を頂点にして一番下に役員が位置する。役員はストアマネジャーやバイヤー、ゼネラルマネジャーなどを支え、ストアマネジャーたちは売り場マネジャーを支える。売り場マネジャーは販売員たちを支える。逆ピラミッドの上位、販売員は顧客を支える。

「自分がこうすべきだと思った方法で仕事できる自由と、自分が顧客だったらこう扱われたいと思う方法で顧客に尽くす自由があるからだ。従業員のインセンティブを奪い、ルールを定めてしまったら、彼らは想像力をなくしてしまう」

『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』 P.63

ノードストロームは個人起業家の集合体のようなものだという。その証左がコミッション制。「出来高制時間給」。出来高制だから総販売額から返品額を差し引くし、基本時間給しか支払われない(実質マイナス出来高の場合、会社側がそのマイナス分を負担)。マイナスが続く販売員にはマネジャーが特別指導を実施、それでも適正でないと判断されれば転属か解雇。

でも、お客様の顔をドル札でも見るような目で見るわけにはいきません。我が社には自由は返品制度があるので、顧客は、買い上げた商品に不満があれば、それをセールス・アソシエイトに返すことができます。でも、それで双方が満足とはかぎりません。お客様にとっても私にとってもそれは時間の浪費です。顧客はご自分が満足した場合は、ご自分の知り合いや友人を私のところに差し向けてくださいます。でも、ご自分がいちばん得になることをしてもらえなかったと感じれば、そういう紹介はしてくださらないのです。

『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』 P.88

無条件の返品制度はノードストロームの根幹。信じられないような返品をうけつけている。でも「信じられない」と私が思うだけであって、「(シンクセル的)顧客第一」が確立していないから”そう”思うのだろう。確立していればロジカルに反論できるはず。

「顧客第一」を徹底的に探求したところ、「絶対にノーとは言わない」サービスが誕生した。そしてその理念を従業員が共有しているからコミッション制を受け入れられるし、受け入れるどころかその制度を活用して平均以上(はるか上)の給与を手にする。その代替として組織は逆ミラミッドを形成しサポートする。循環。

ところで本書をはじめ最近レビューしたスターバックスSASなどは数年前から10年ほど前に出版されている。こういった「古い」マネジメント本を読むと、ひとつの事実がわかる。「数々の手法が濾過されて残った要素が原理原則だ」ということだ。この3冊以外にも本棚に役割を終えて眠っている本をおこしてみると、今となってはチープに映るものもあれば、かいつまんで話せる内容もある。

古い書籍を今の視点で読めば、補完できる要素を想像する。ノードストロームでいえば、私にはアナログに映るシーンもあるし、そんなやり方で在庫管理が適正なのかと首をかしげた(ウェブやインターネットに携わっていると拍車がかかる)。だからググッてみるとむべなり。「ノードストローム/JCペニー積極的なIT投資で百貨店としての強みを補強した米国の2大デパート」という記事。

ペクター氏によると、ノードストロームが長い間ITに対して消極的な姿勢をとってきた背景には、第1に、長年かけて築き上げてきた顧客と販売員との関係にITが割って入ってくることに対する拒否反応が現場に根強く残っていたこと、そして第2に、コミッション制で働く販売員に支持されるような技術を見つけることができなかったこと──があったという。 だが、業績が一向に上向かないことにしびれを切らした同社は、ついにITの本格導入を決断。その後は、オラクルの財務会計アプリケーション、マンハッタン・アソシエイツの倉庫管理アプリケーション、リテックの在庫管理アプリケーション、ビジネス・オブジェクツのビジネス・インテリジェンス・ツール、……と、せきを切ったようにシステムを導入していった。

財務的発想でたとえるなら、「業績がよい企業は赤字になってから手を打ったのではない。黒字のときに次の黒字を生み出す手をすでに打っている」といったところかな。