[Review]: ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)

昨年、会計事務所を顧客にする会計事務所の戦略を紹介(参照)。ゲーム業界に目を向けるとニンテンドーDS Liteはいまだ入手しづらい状況が続く(2007年11月現在、供給も十分になった様子)。「ゲーム機に関心がなかった層に購入してもらうには?」の問いから出発して開発。その戦略を敷衍するように大人向けの学習ゲームや料理のレシピといったソフトを販売。いずれも単純な差別化戦略ではない。差別化戦略が優れているのではなく、その戦略を実行した市場にはまだ誰もいなかった。つまり、未開拓の市場を発見した。それがブルー・オーシャン戦略。

目覚ましい技術進歩のおかげで、企業はかつてないほど多彩な製品やサービスを生み出せるようになった。しかしその一方で、製品やサービスのコモディティ化が進み、価格戦争は熾烈の度を極めている。こうした状況下で、企業は従来、差別化、低コスト、コア・コンピタンス、ブランディングなど、さまざまな戦略を駆使して競合他社との戦いに挑んできた。しかし、ライバルと同じ市場で戦うかぎり、どれほど巧妙に戦略を練ったところで、いずれ消耗戦を強いられることに変わりはない。

『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)』 W・チャン・キム, レネ・モボルニュ

各社しのぎをけずり、限られたパイからできるかぎり多くを奪い取ろうと競争している既存市場。それを「レッド・オーシャン<赤い海>」と呼ぶ。いま企業がめざすのは競争自体を無意味なものにする未開拓の市場だ。それを「ブルー・オーシャン<青い海>」と定義。

ブルー・オーシャンはむかしから存在した。古くはT型フォードの出現であり、そこから派生したGMの「年次モデル(次々にモデルチェンジする)」であり、クライスラーのミニバン。

かつてマイケル・ポーターが画期的な論文『競争戦略論』を発表したように、「戦略」が重要であるのは古今変わらない。ただ、今までの戦略は主として、レッド・オーシャンでの競争に焦点があてられていた。既存市場のなかで低コスト・差別化を実現する戦略が論じられた。ブルー・オーシャンを創造しようとするような戦略論が展開されなかった。それには理由がある。ブルー・オーシャンには海図がないからだ。過去誰もやらなかった事業を立ち上げるのだから手本はない。何よりも誰もやらなかったことに”気づく”ための解析方法を持ち合わせていなかった。

ブルー・オーシャンへの航海に出発するための海図が本書に記されている。戦略を策定するための指針は以下の4つ。

  1. 市場の境界を引き直す
  2. 細かい数字は忘れ、森を見る
  3. 新たな需要を掘り起こす
  4. 正しい順序で戦略を考える

この4つを詳しく説明したのちブルー・オーシャン戦略への障害を解説する。障害とは主として「組織」と「人材」。「戦略・組織・人材」の3要素があますところなく展開されているにもかかわらず、抽象論に終始していないのでとても参考になる。

ブルー・オーシャン戦略は企業にだけ求められるのではないと気づく。今も昔も「個人」に求められている戦略ではなかろうか。「私は何をしたいのか?」は開口するまでもなく大切。他方、「私は何を求められているのか?」という発想を置き去りにしてないか。「私は何を求められているのか」から<私>にアプローチしたとき、まだ誰もいない領域が見つかるかもしれない。内田樹先生や橋本治先生がブルー・オーシャンで活動されているように私は思う。賛否両派から反響があり、どちらか一方だけに棲んでいない。ある意味、誰からも「わからない」と評されつづけることが自分の存在価値のように位置づけている—–そんな”戦略”を実行しているように感じる。