[Review]: アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業

アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業 (ウォートン経営戦略シリーズ)

「顧客への支援(アドボカシー)を徹底することで、顧客の信頼を得ること」を実践できているだろうか?

企業と顧客の力関係は、インターネットの登場によって完全に逆転した—-それが今日のビジネス環境変化の本質だ。精緻なマーケティング戦略、斬新なキャンペーン、充実したポイント・プログラム、……こうした従来のマーケティングは、もはや破綻している。それどころか、逆効果を生みさえしている。[…]そこで提唱され始めた新たなコンセプトが「アドボカシー(advocacy;支援)」である。たとえ一時的には自社の利益に反することでも、顧客にとっての最善を徹底的に追求する。一見、常識に反するような試みを、事実、幾つもの企業が導入し始めた。まさにマーケティングのパラダイムが大きく変化しつつあるのだ。

『アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業 (ウォートン経営戦略シリーズ)』 グレン・アーバン

インターネットによって顧客は製品やサービス、それらの関連情報を入手できる時代に突入した。さらに、SNSやブログなどにアクセスすれば、「口コミ」まで手に入る。そして、気に入れば”ワンクリック”で手元に配達される。カスタマー・パワー、顧客自身が持つ力がかつてないほどに強まっている。

昨年、『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』レビューを書いた。ノーと言わない理念のエピソードが紹介されている。ある顧客が洋服を求めて来店した。応対した店員は、顧客が希望するような洋服がノードストロームで販売されていないと判断した。そこですぐさま他社のお店で購入して、その洋服を、ノードストロームの商品として「値引き」して販売した。一連の意思決定に上司や上層部は介入していない。すべて一店員が判断した。

「一時的な値引き」によって生じる「数字の損失」よりも、「信頼という価値」を優先する。信頼を得るために、ノードストロームは徹底的に顧客を支援する。

顧客を支援せよ
偏りのない完全な情報を公平に提供する。透明性を確保し、すべて公開する。企業の仕事は、顧客が弱い立場にある場合に、不当なサービスや欠陥商品などから顧客を守ること。
優良商品へ重点的に投資せよ
「製品のプラス面を強調し、マイナス面を伝えない」という古いルールも役に立たない。インターネットが生んだ透明な世界では、もはや企業は、自社の製品やサービスの欠点を隠せない。
価値を創造せよ
成功の鍵は、顧客が望み、必要としている付加価値を生むことだ。重要なのは、製品・サービスの付加価値の向上やイノベーションを図り、価格競争を避けること。製品の値段と価値を一致させるべき。
顧客とともに製品を作れ
「価値」の重視を掲げるからには、顧客にとって何が価値なのかを理解しなくてはならない。顧客のニーズや意思決定のプロセスを理解する。顧客との密接な協力関係を築く必要がある。
完全に実行せよ
「信頼とは、獲得するのは難しく、失うのは簡単」なものであり、企業にとって、顧客との約束の実行こそ、何よりも重要なもの。
顧客にとって優良企業であれ
「顧客を自社の<優良顧客>にするにはどうすればよいのか」ではなく、「自社が顧客にとっての<優良企業>になるにはどうすればよいのか」を自問する。
顧客との長期的な信頼関係を測定せよ
あなたの会社に対する顧客の信頼のレベルを測定する。

アドボカシー戦略は一朝一夕には実践できない。もとより、アドボカシーを導入する下地を作らなければならない。その下地は何か?答えはないにしろ本書がその方向を示唆している。

顧客を支援しようとするなら、顧客の立場に立ってみなければならない。が、「顧客の立場に立とう」というスローガンを掲げている組織はあるけれど、「顧客の決定を体験する」企業はどれほどあるだろう?

自社製品やサービスを購入するとき

  • 「このとき、私はどのような体験をしたかったのか」
  • 「私はどのような情報を求めていたのか」
  • 「私は顧客として、どのように扱ってもらいたいのか」
  • 「どうすれば、今よりもっと早く、もっといい結論を出せるのか」

を記録してみてはいかがだろう。「顧客の購買意思決定プロセス」と「社員の応対プロセス」という二重を経験する複雑系。それを厭わない企業がアドボカシーを実践でき顧客から信頼を得られるのではないだろうか。マーケティングに興味のある人は必読の一冊。